第六話-6
(おやまあ予想通り)
探知された三つの呪容体のうち、固まっている二個の種類は友好的なものだ。問題は残りの一つ、住宅に侵入を試みて敷地内に潜んでいるそれが、警戒対象の呪容体なのだ。
同じく住宅の敷地内に滑り込み、冬雪は潜むその男に拳銃を突きつけた。
「銀魔力と悩んだが、こちらの方が静かかと思って」
拳銃を突きつけられた男──ウィルヘルム・アップルトンは、愕然として手に持っていた針金を取り落とした。鍵穴を開けるためのピッキングツールらしい。地面に落ちると形を保てず液状になって消滅したので、銀魔力によって形成されていたようだ。
「頼むから騒がないでくれよ。夜中の市街地での戦闘は静かに終わらせるのが面倒なんだ。ってか撃つと銃声が鳴らなくても血が出るからあまりやりたくないんだ、とにかく動くな」
銃声が鳴らないのは、冬雪が構えている拳銃が魔導系軽火器だからだ。実弾を装填する拳銃だと魔導系軽火器でも特有の銃声が鳴るが、冬雪が今手に持っているこれは魔法力の一種であるマナを使用してその場で魔法を放つため、実弾を装填することはなく銃声も鳴ることはない。
日本警察が使用していた回転拳銃ミネベアM60を模した、マナ・リボルバーと呼ばれる拳銃である。『霊眼』になるより前から使用していた愛銃だ。かつては堕天使ルシャルカの討伐過程においても実戦投入された、冬雪の武力の象徴ともいえる。守るためには容赦はない、を明瞭に示す武器として、これ以上のものはない。
「ボクの魔道具屋に送り込んできた侵入者はお前の差し金だな。陽動を送り込んでボクを牽制しておいて、ここで何をしようとしていた? ここはスチュワート家、お前が協力者にしたアンドリュー・ピットが誘拐した兄妹の家だ」
ウィルヘルムが何も答えないでいると、冬雪は銃口を背中に強く押し付けた。
「言えないか。では代わりに答えてやる。スチュワート兄妹を再度誘拐するか、それとも両親の方を直接脅迫するか……いずれにせよお前は、共和国外務大臣たちの不祥事をでっち上げた記事を、グレゴワール氏かシルヴィ氏に書かせる気だったのだろう。そんなお前の正体は帝国から来た通訳者ではなく、帝国海軍省情報部の諜報員だ」
確証はなくあるのは確信のみだったが、あえて断言する。
「ウィルヘルム・アップルトン、外国諜報等罪の容疑で特別情報庁が拘禁する」
後日の捜査で、ウィルヘルム・アップルトンの所属が実際に帝国海軍情報部であることが確認された。
親の罪は親のものであって、それが子に及ぶことはあってはならない──。これは民主主義の重要な原則であって、共和国においてもそれは例外ではない。ウィルヘルムを拘禁したのち、問題になったのはヨーゼフ・アップルトンの存在だった。
先にも述べたとおり、親の罪が子に及ばないのは大前提であるため、ウィルヘルムに付き合ってヨーゼフが拘禁されることはない。それはそれとして唯一の保護者であったウィルヘルムが消えた今、ヨーゼフの身の安全を守るものは何もない状態である。
帝国の少年が共和国の地で野垂れ死ぬことがあれば、今度は国際問題に発展しかねない。だからといって、ウィルヘルムを免罪するわけにもいかない。信賞必罰は法治国家の原則である。
『幻影』が話し合った結果、ヨーゼフにはウィルヘルムが失踪したと説明することになり、一時的に冬雪家で預かったのち、ギルキリア市中央区に置かれた孤児院に入所させることになった。特別情報庁の息がかかっており、情報戦争の影響で親を失った子どもを保護している。似たような施設は、実は共和国各地に点在するのだ。
冬雪はしばらくの間、定期的に孤児院に足を運び、ヨーゼフの様子を観察するよう努めた。彼のスペシャリストとしての哲学に基づいて、である。トパロウルが聞けば、真面目だとでも述べたかもしれない。ヨーゼフは孤児院に入った直後は感情を殺したように表情を動かさなかったが、二週間もする頃には、冬雪には僅かに笑顔を見せるようになっていた。このとき冬雪が何を思ったか、彼は『幻影』のメンバーにも話さなかった。
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