第五話-3
「スチュワート兄妹を変質者に誘拐されました。申し訳ありません」
冬雪は堤防周辺を調べると追跡が不可能なことを悟り、雑木林に再度隠れて『幻想郷』に通信を繋いだ。
「敵の実力を見誤りました。ただ、奴が使った閃光弾、あれは一個人で入手できるものではありません。何らかの裏がある可能性が高いかと」
「警察官から拳銃が奪われた事件との関連はどう見る?」
「奴がボクに放った銃弾──狙ったつもりで外れたのか端から牽制だったのかは分かりませんが、これは木に着弾していたので回収しています」
冬雪は、ポケットに仕舞っていた銃弾を取り出した。弾頭は潰れているが、原形は保っている。
「材質は鉛に鉄のコーティング、直径は三・八一ペラレイア、旋条痕は四条右回り。以上の特徴からして、ギルキリア市警察正式採用ワルキューレ73拳銃のもので間違いないでしょう。拳銃奪取犯とスチュワート兄妹誘拐犯は協力関係にあるか、実力的に、同一人物である可能性は高いと見て良いと思います」
「本部に報告しなければならんな。しかしまさか、お前さんが無力化されるとは思わなかったぞ」
「ええ、それはもう、面目次第もありません……」
「いや、責任の追及は今ではないな。調査チームと探偵をそっちに向かわせる。一刻も早く、敵を確保しろ」
雑木林で合流した探偵──『白兎』のコードネームを持つ岩倉と、冬雪は対応を話し合った。
「敵……名称がないと面倒だね、暫定的には河童と名付けておこう。その河童だけど、奪われた拳銃を持っていたんだね?」
「市場で一般向けには提供されていないワルキューレ73を持っていましたから、恐らくは。ただ、拳銃奪取犯と河童が同一人物であるという確証はありませんね」
「それでも、状況証拠としては充分、か。キミの能力で、誘拐された二人の居場所は掴めないの?」
「閃光弾に無力化されている間に、探知可能範囲内から離脱されたようです。距離を取られては居場所を特定することは難しいですね」
呪容体を使えば、一定範囲内にいる呪容体保持者の位置を特定することができる。だがこれは、自己複製する呪術魔法に転移魔術を組み込んで使用するという高度な技術で、現在の探知可能範囲は、せいぜいが半径二〇〇レイア程度の至近距離だ。自動車を使えば、たった一分冬雪を無力化するだけで、探知可能範囲から離脱できてしまう。
「ただ、気になるのは河童がボクの銀魔力に気付いた方法です。少なくとも周囲に精霊の気配はありませんでしたし、死角から接近させた銀魔力に、一体どうやって気付いたのか……」
冬雪は、離魔術行使で銀魔力を伸ばしていた。河童のすぐ背後の地面からだ。影も死角に入るよう計算して拘束を試みたのに、気付けるはずがないのだ。
「何者かがこちらを観察していたのか?」
そんな仮定をしてみたが、真偽が明らかになるのは河童を拘束した後になる。やがて到着した特別情報庁の現場調査チームが素早く現場を調べ、堤防の傍に自動車が発進した痕跡があることを告げた。用意のいいことだね、と言って、岩倉が苦笑した。
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