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第四話-7

 以降、冬雪はフレデリカの指示で動くことが多くなった。形式上、冬雪はアデラールに雇われているということになっており、フレデリカは雇い主ではない。不審に思われないか、という点は彼はやや心配したし、ヴェルニッケも口に出して、


「旦那様が何か言わないかなあ、大丈夫かな」


 などと言う。だがフレデリカは、そんな彼らの心配をよそに、むしろ冬雪に用事を言いつける回数を増やしていった。


「そうすれば、あなたがお父様に付かないことを示せるわ」


「そういうものですか」


「そういうものよ。お父様も、私がお父様を疑ってることは、多分薄々気付いてると思うわ。そうそう、明日はシャロン魔石鉱業の研磨場に行くことになっているから、運転はあなたに頼むわね」


「……はい?」


 急なことで呆気に取られていると、横から現れたアルテミエフが冬雪の腕をつつき、


「フレデリカさまは、気を許した相手に時々このようなお戯れをなさいます。慣れてください」


「戯れ……では、先ほどのは冗談なのでしょうか」


「いえ、本気です」


「……」


「可愛らしいですよね」


 気を許すのが早くないだろうか、とか、なぜそこで自慢気になるのか、とか、言いたいことは色々ある。色々あるが、とにかくまずは、シャロン邸の車を調べなければならなかった。幸いなことにシャロン邸の車はウォンデル社製であり、高級車と言えど仕組みや操作方法は庶民向けの大衆車と変わらないので、扱いを覚えることにさほど苦労はなかった。


「アデラール様の取引について、何か分かりましたか?」


 フレデリカが子会社の役員と仕事の話をしている間、車の横で待機させられている冬雪にアルテミエフが話しかけた。


「ほとんど進捗はありませんよ。そういえばお嬢様は、旦那様の裏取引の情報を集めてどうされるおつもりなのでしょう。ルナさん、何か聞いています?」


 裏取引の情報を種にアデラールを引かせ、財閥を奪取するつもりだろうか。冬雪がまず思いついたのはこのような政争の可能性だったが、だとしたら、なかなかの野心家だと言えるだろう。なのだが、


「内容次第で、特別情報庁か検察庁の知人に報告する、と」


 もう済んでるよ、と言いたいのを、冬雪は堪えた。検察庁はともかく、特別情報庁にも知り合いがいるというのはどういうことだろう。これもトパロウルに報告した方がいいのだろうか、などと冬雪が考えていると、今度はアルテミエフが質問を寄越してきた。


「ホルトさんは、フレデリカさまのこと、どう思ってますか?」


「難しい話ですね。まだ雇われてから日が浅い私のような者を味方に引き込もうとするあたり、大胆な方だとは思いますよ。本当に私が初めから旦那様の手駒だったら、どうするつもりだったのでしょうね」


「あなただったら、フレデリカさまと同じ立場だったとき、どうしますか?」


「どうしましょうかねえ、まずは確実な味方に監視させ、旦那様と内通している様子がないか確認するでしょうか。繋がっていたら、解雇できる方法を検討するでしょうね。その役割を担ったの、ルナさんでしょう?」


「……気付かれないように気を付けていたつもりだったのですが」


「すみません、私は昔から、人の気配を拾うのが得意でして」


 実際には盗聴で得た情報もあった。グランテールを見極めるように、という指示を出すフレデリカの声を、たまたま上手く拾えたのだ。


 盗聴といえば、冬雪は新しい情報を、シャロン邸に帰着した直後に拾うことができた。それは、アデラールが銃持ちの使用人に、後日の予定を話していたときの声だった。


「明後日の話だが、エンケラドス荘園との商談が入った。本部の第三応接室を押さえておけ」


「承知いたしました、旦那様」


 短い会話だったが、冬雪はそれを聴くと素早く人気のない方の地下倉庫に飛び込み、起動した通信魔法陣を『幻想郷』に繋いだ。


「ボス、いらっしゃいますか。至急本部に問い合わせてほしいことがあります」


「なんだ、言ってみろ」


「共和国と連邦及び四つの属国、それから念のため帝国と自治領にある会社に、エンケラドス荘園という名前のものがあるかどうか、あったとしたら現在活動しているかどうかを調べてください」


「そんなことならすぐに調べるが、なぜだ?」


「エンケラドスは連邦の地域名に酷似しており、荘園はジャポニオ民国の言葉です。存在しない会社名か活動停止中の会社名だった場合、連邦の諜報員が名乗っている可能性があります」


 エンケラドスは第一世界空間の太陽系惑星土星の衛星だ。連邦には他にもエウロパ(これは木星の衛星だ)という名前の都市もある。冬雪は、他の衛星の名前も連邦の都市の名前の元になっていると睨んでいるのだ。


 その日のうちに、冬雪はトパロウルから、特別情報庁本部からの回答を聞かされた。結果は彼の考えたとおり、実在しない会社名だった。

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