第四話-6
ディークマイヤーに転職した元使用人にフレデリカの書いた紹介状を見せると、冬雪はあっさりと、話を聴くことができた。簡単に言ってくれるな、と思いはしたが、実際簡単ではあったらしい。内容をまとめると、以下のようになる。
「銃を持っている使用人は、全員旦那様の手駒。その内で魔導系軽火器を所持している使用人はヴェルニッケさん一人。全員免許は一般軽火器免許で、ヴェルニッケさん以外、整備は各自で行っているようです。機密情報は一部の使用人しか解錠方法を知らない金庫室に保管されているので、機密情報の持ち出しは現実的ではありません。裏で取引が行われていれば証拠がそこにあるかと思いますが、入手は難しいですね」
屋敷への帰着後、冬雪は聴いた内容をフレデリカに報告していた。元使用人はシャロン邸に仕えて長く、そこそこ内部の事情に詳しかった。財閥本部にも出向くことがあったらしく、こちらの内部についても多少の情報を得ることができた。
「金庫室といえばシャロン財閥本部にもありますが、そちらはシャロン邸よりも警備が厳しく、鼠一匹通さないというほどで。裏で行われている取引の情報を押さえるには、現場を突き止めた方が早いかもしれませんね」
「でも取引はあるとしても不定期よ。今までかなり注意してお父様のスケジュールは観察していたつもりだけど、元から継続していた定期的なもの以外、規則性は見つけられなかったわ」
精霊を使えば、理屈としてはアデラールの記憶を盗むことができる。それなら初めからそうすればいいのだが、これには条件がある。まず契約している精霊術師が傍にいること、そして記憶を盗まれる人間が意識を失っている、あるいは朦朧とさせていることだ。
まとめれば、眠ったり気絶しているアデラールに接近できなければならないのだ。だが、その条件を満たすのは難しい。盗めるものならとうに盗んでいる。だからこそ、彼はちまちまと使用人をやりながら、情報を得る隙を探っているのだ。
フレデリカにしたのと同様の報告を冬雪はトパロウルにも伝え、代わって特別情報庁本部から送られてきたセオドア・ヴェルニッケの情報を聴く。魔導系軽火器を使用する彼がなぜ自分で銃を整備できないのか疑問だったが、やはり魔導系軽火器取扱師免許を持たず、一般軽火器免許で銃を持っているかららしい。
(撃たれるならむしろ、精度は高い銃で撃たれたいんだけどな。その方が防御が楽だから)
手入れのされていない銃など、照準が狂って使い物にならないだろうに。
(とはいえ、銃の所持者が全員アデラールの手駒だとなると、表立っての対立は避けたいな。アデラールはフレデリカとルナは撃たないように命じるかもしれないが、ボクを狙った弾が逸れて二人に被弾する可能性もある)
それは望ましい結果ではないのだ、冬雪としても、特別情報庁としても。シャロン財閥は、共和国有数の経済力を持つ大企業だ。アデラールの売国行為は容認できないが、会長を拘束した結果、財閥が空中分解しては困る。それを防ぐには、令嬢たるフレデリカに健在でいてもらわねばならないのだ。それでなくとも、フレデリカに危害が及ぶ結果になるのは冬雪の主義にも反する。
(結局、アデラールを監視しておくしかないのか)
決定的な有効打は、どうにも見当たりそうにない。
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