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第四話-1 売国奴

 今のお父様は信用ならない──。冬雪が盗聴した会話の中で、フレデリカはアルテミエフに向かって、確かにそう言った。その理由が、裏で動いて何かをしているからだ、とも。


 その情報の真偽を確かめるため、冬雪がまず行ったのは、フレデリカとアデラールの信頼関係に関する調査だった。仮に信頼関係が崩れたうえでの発現であれば、誤解や先入観が働いている可能性が高くなる。


「旦那様とお嬢様は、もしやあまり仲がよろしくないのでしょうか」


 手始めに、冬雪は使用人の昼食休憩の際、小声でヴェルニッケに尋ねてみた。冬雪の教育係の彼は、他の使用人よりも話す機会が多い。今は若い新人という立場もあって、シャロン邸内の情報を訊いても不自然に思われる可能性は低いだろう。


「うん? 仲は悪くないと思うけど、どうしてそんなことを訊くんだい?」


「お二人とも、先ほどの昼食の際、あまり話すために口を開かなかったものですから」


 想像していたのと違う、という感想を抱いたのは事実だ。そういう習慣、と言われればそれまでだが、アデラールもフレデリカも、食事中はほとんど言葉を発さず、二言か三言、料理の感想を厨房担当の使用人に述べたまでだった。両者の間の会話は、一切ない。


「うーん、僕がシャロン邸(ここ)で働き始めたときから、元々親子らしい会話は少ない方たちだったけど……そういえば、最近は以前に比べても、確かに会話は減っているような気もするなあ」


 そういうのはもっと仕えて長い使用人に訊いた方がいい、との助言をされたので、次の休憩時間になると、冬雪は同じ質問を、いくらか年長の使用人にしてみた。彼はシャロン邸で働くこと一五年のベテランで、フレデリカが幼かった頃からその様子を知っているという。


「そうさな、お二人の親子の会話が減ったのは、二年前に奥様が亡くなられた後からだな」


「奥様、ですか」


「ああ、ローザライン奥様だ。お嬢様専属の、ルナってやつがいるだろう。あいつを拾ったのも奥様だったんだよ」


 ローザラインの知人夫婦が死んだとき、残された幼い少女を引き取ったのだという。初めはローザラインの提案で、今はフレデリカに心酔して、アルテミエフはフレデリカに仕えているのだと。


「ルナは奥様に、娘同然に育てられたからな、お嬢様にも妹同然なんだろうよ。……と、話が逸れたな。すまん」


「いえ、私が訊いたことですから、お気になさらずに」


「そうか? ともあれ、奥様が亡くなられてから、お二人の親子の会話が減ったように思える。表向きには立ち直ったように見えるんだが、案外まだ、立ち直れていないのかもしれないな」


 必ずしも仲が良くないとは限らないのではないか、という、なんとも煮え切らない結論だった。もう一人くらい話を聴いておこう、と考え、今度は厨房の食器洗いに駆り出されたとき、女性の使用人に同じ質問をしてみた。


「良いか悪いかで言えば、良い方だと思いますけどねえ」


「食事のときは、とてもそうは見えませんでしたが……」


「お食事のとき、会話の中心にいたのは奥様でしたからねえ。あら、あなたは奥様のことは知らなかったわね」


「先ほど、別の方から少しだけ聞きましたが、詳しくは」


「でも旦那様がお嬢様を信頼なさっているのは確かよ。そうでなくちゃ、傘下の会社の一つ、任せるはずがないもの」


(つまり、フレデリカはともかく、アデラールの方からは信頼があるわけか)


 それであれば、アデラールがフレデリカに、いくらか機密情報を共有している可能性は高そうだ。フレデリカがよほど突飛な発想でもしない限り、正確な情報に基づいてアデラールを見ることだろう。その場合、やはりフレデリカの不信感には信憑性が出てくる。


 外患誘致予備罪や国内経済情報漏洩罪などの国家機密情報取扱法違反になるかは不明だが、アデラールが裏側で蠢いていることは確実だろう。

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