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第三話-8

 シャロン邸の使用人になった翌朝、冬雪がヴェルニッケとともに屋敷の玄関で清掃を行っていると、二台の高級車が敷地内に入ってきた。ヴェルニッケや他の使用人たちは、それを見ると各自の持っていた道具を隅に置き、居住まいを正して整列する。


 冬雪もそれに倣って使用人の列に並ぶと、小声でヴェルニッケに尋ねた。


「あの車はなんです?」


「うん、昨日はいなかったからね、知らないのも無理はないだろう。あれは旦那様の一人娘、フレデリカ・シャロンお嬢様の乗る車だ。先導する一台は、お嬢様に同行する使用人と、荷物を載せた車だよ」


 言葉の通り、前の一台から降りてきたのは四人の使用人で、その内運転手以外の三人は女性である。後続する二代目から降りてきた運転手の男性の使用人がドアを開けると、車からは一人の女性の使用人と、ドレスに身を包んだ女性が降りてきた。


「あの金髪の(かた)が、フレデリカお嬢様だ。車から一緒に降りてきた使用人はお嬢様専属のメイド、ルナ・アルテミエフ。旦那様ではなく、お嬢様に忠誠を誓ってる。お嬢様にとっては付き合いも長いし、妹みたいなものらしいよ」


 フレデリカは、軽くウェーブを描く金髪の、美しい女性だ。アルテミエフは赤みがかった茶髪をボブカットにした女性で、かなり若く見える。聞くとフレデリカも充分若く二四歳だというが、アルテミエフは現在一七歳、冬雪とほぼ変わらないようだ。フレデリカよりアルテミエフの方がやや小柄であり、妹のようなものと言われても、確かに納得できる。


 玄関に歩いてきたフレデリカに向かって、最も玄関から離れた位置に並んでいた使用人が挨拶した。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 それを合図に、整列した使用人たちが一斉に礼をする。あとからヴェルニッケに聞いたところ、これがシャロン邸のやり方なので覚えておけ、ということだ。一瞬遅れて、冬雪もこれに倣う。だがその一瞬で、冬雪はフレデリカの目に留まった。


「見ない顔ね。新入りの使用人かしら?」


 足を止めたフレデリカに問われ、まず代わりに、ヴェルニッケが答えた。


「はい、昨日から旦那様が雇い入れたホルト・グランテールです。グランテール君、自己紹介を」


「昨日からこちらで雇っていただいております、ホルト・グランテールと申します。至らぬ点も多いかと思いますが、今後精進してまいります」


 このような機会もあるだろう、ということで、トパロウルに仕込まれていた挨拶の文言を、冬雪は一字一句違えることなく読み上げる。ただし読み上げていることを悟られぬよう、言葉には適当な抑揚をつけて。


「ホルト・グランテール、覚えたわ。見たところ、随分若いようね。あなた、年齢は?」


「今年度で、一八になりましたが、それがどうかなさいましたか」


「そう、ルナと近いのね」


 そう言うと、フレデリカは一歩斜め後方に控えていたアルテミエフを前に押し出した。


「この子、小さいころから私に尽くしてくれているからか、あまり仲のいい同世代の友人がいないの。あなたさえ良ければ、ルナと仲良くしてやって」


「ふ、フレデリカさま!」


 フレデリカにからかわれ、アルテミエフが驚いて声を裏返らせる。どうやら珍しいことでもないのか、他の使用人たちはアルテミエフを助けるような素振りはなく、むしろ二人のやり取りを微笑ましそうに鑑賞している様子だ。冬雪もつい笑いそうになり、彼はそれを何とか押し留めるが、今度はやや返答に困った。最終的にはフレデリカの申し出には無難な対応を選び、


「私などで良いのでしたら、喜んで」


 と返すことにした。

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