第三話-7
アデラールの銃を整備し、ついでのように呪容体を仕込みながら、冬雪は作業と全く別のことも考えていた。
(実力はかなり隠したつもりだったんだが……どうやらセオドア・ヴェルニッケには、警戒されてしまったらしい)
隠し持っていたつもりの銃が見つかったのだから、当然といえば当然なのだが、残念ながら冬雪に、その自覚はない。ああは言ったが、銃に触れたことのない者であっても気付く者がいそうなくらいには、ホルスターは目立っていたのだ。
(銃の所持は、恐らくアデラールを護衛するためのもの。屋敷の警備担当以外にも、銃を所持した使用人は何人か見かけた。だがヴェルニッケのあの態度……あれはボクを試したのか、それとも単に、隠し持つのが下手だったのか)
銃の整備をしている今も、ヴェルニッケは警戒心丸出しで冬雪を観察している。凶器になりうるものを扱っているのだから監視は当然だが、それにしても度が過ぎているのだ。
(いやまあ、多分あの銃に撃たれても、ボクの実力なら簡単に防御できるんだよなあ……でも撃たれて無事なら、それはそれで不審だし)
対応に困る、というのが正直な感想だ。これ以上警戒されると、貴重な情報源を失う結果になりかねない。あれこれと思案しているうちに、結局ベレトメス85の整備が終了してしまった。
「ええっと、こちらの整備は終わりましたが。ヴェルニッケさんの銃はどうします?」
「……気にしなくていい」
「そうですか」
銃を所持している使用人が複数いるのに、銃を整備できる者がいないというのはどういうことだろうか。手入れを怠った銃は精度を落とす。何かあってからでは遅いだろうに、疑問は募る一方だ。
とにかく早く、ヴェルニッケの警戒心を解かなくてはならない。彼は新人使用人の冬雪の教育係でもあるのだ。初日から冷気が漂っていては、周囲にも要らぬ猜疑心を抱かせることになる。
……結論から言えば、その心配は一時間後には解消された。
「グランテール君、さっきのこと、すまなかった」
銃の整備の後、冬雪はヴェルニッケの指導の下、廊下の清掃作業を行っていた。その最中での、突然の謝罪である。他の使用人がいなくなったのを確認すると、ヴェルニッケがいきなり頭を下げ膝を突いたのだ。
「さっきのこと、というと」
「地下室でのことだよ。言われてみれば、あんな取り付け方では、ホルスターがあることは丸分かりだった。それに気付かれただけで過剰に反応して、君に銃を向けた。それに対する、謝罪だ」
少々潔すぎる気がしたが、その謝罪は素直に受け入れることにした。冬雪としても好都合だ。余計な軋轢を表面化させるのは、任務のためにも避けたいところだった。
「気にしていないといえば嘘にはなりますが、根に持つことはしませんよ。銃が見つかったら、誰だって警戒するでしょうから」
そう言って話を収めたが、その日の夜、冬雪はヴェルニッケのことを、トパロウルに報告していた。
「銃の扱いについて、少なくとも一般人よりは慣れていると見て良いでしょう。構えた際の狙いに、一切のぶれがありませんでしたから」
「セオドア・ヴェルニッケか。特別情報庁本部に情報を請求しておこう。だが用心しておけ」
「それについては抜かりなく。彼の銃に撃たれて死ぬような無様は晒しませんから」
舐めているようなことを答えながら、冬雪は通信を切った。
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