第七話-4
コードネーム『枯尾花』、ぼさぼさと無造作に伸ばした髪で陰気な表情を隠す、猫背の青年。
コードネーム『木洩日』、艶のある黒髪をポニーテールにした、蠱惑的で小悪魔的な美女。
見事に対照的に思える両者だが、いずれも対外情報局の防諜員であり、しかも恋人同士だ。岩倉が抱かせた『枯尾花』を冬雪が強請って情報を抜き取った後、冬雪は仕掛けられたことに気付いた『木洩日』に誘われた。
もっとも前述の通り、冬雪はそれに対して嫌悪感しか抱かなかったため、『木洩日』の誘いは完全に袖にしている。彼からしてみれば、「清楚系浮気ビッチギャル」という少々言いすぎな評価である。彼女はなかなか酷い評価を受けた挙句、ただ敵に素顔を晒しただけの結果となった。
それに関しては冬雪が取り合わなかったのでどうでもいいのだが、この『枯尾花』と『木洩日』という二人、基本的に特定のチームを組ませない対外情報局には珍しく、コンビで動かすことが多いメンバーだ。恋人同士というだけあって連携を取らせやすいのだ。
その割に『木洩日』は冬雪に色仕掛けを試みるし、『枯尾花』は色仕掛けに引っかかっているので、岩倉が訊き出したこの情報も、どこまで信じられたものか分からない。あるいは工作員同士の恋人ということで、そこは割り切っているのかもしれないが。
「だとしたら、この写真無駄になりませんか。どう使うつもりだったんです」
「これを恋人に渡されたくなかったら、正直に情報を寄越せ、ってやるつもりだったんだけどね。ちょっと話変わってくるね」
「『枯尾花』がボクたちみたいに国内で伝説を更新し続けている、とかだったら、社会的立場を失墜させるのに利用できるかもしれませんが。こいつ何かしてないんですか」
「全体的な傾向として、対外情報局の工作員は、あんまりそういうことをしないからねーぇ。特別情報庁の方が特殊なんだよ、これに関しては」
完全に無駄になってしまった写真を、冬雪は処分しようと火を起こした。ところが、岩倉がそれに待ったをかける。
「例外がないわけじゃない。対外情報局にだって割合的には少ないけれど、別の身分を名乗って国内に溶け込んでいる工作員がたくさんいる。調べてみてからでも遅くはないよ」
「……『枯尾花』の顔写真とかあります? さすがに交尾の写真を使って調べるのは無理でしょう、連邦の性的画像等頒布罪になりますし」
「あるよ、ほら」
「『木洩日』の方はボクが接触受けたタイミングで隠し撮りしておいたから、これが使えるな」
『枯尾花』を岩倉が絞った後、カメラを持って歩いていたところを『木洩日』に声をかけられたのだ。繰り返し断ってもしつこく誘い続けてきて鬱陶しかったが、その分だけ、写真を取っておく機会もあったということだ。
「まあ一応調べるだけ調べておくか」
二人分の顔写真を手に持ち見比べて、冬雪は最初の心当たりを当たった。
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