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第七話-2

『呪風』による深夜の襲撃以降、結局一睡もできなかった赤坂は、『閻魔』の拠点で考えていた。


「どうして、私の居場所が分かったの?」


 彼は魔法陣に飛び込んで退却した。ということは、出現方法も同じような魔術であると考えられる。あれは恐らく、制御が精密な代物だ。何らかの方法で居場所を追跡していなければ、厳重に秘匿された『閻魔』の拠点を突き止め、侵入するのは困難なはず。


 つまり、赤坂自身に、何らかの目印が付けられている可能性がある。しかし『呪風』という特別情報庁の工作員(スペシャリスト)と、直接会ったことはない。唯一の接点といえば、赤坂が彼に呪を付与した銃撃戦のみ。あれで仕掛けた呪いが未だに効いていなかったのは驚いたが、可能性があるとすれば、その一度きり。


「だとしたら、私がしたのと同じように、『呪風』も銃弾に乗せて、私に何かを仕掛けた?」


 赤坂は『呪風』と撃ち合った際、一度氷の弾丸を肩に受けている。毒が含まれていることはなかったので、そのまま精霊に治癒を任せていたのだが、その銃弾に目印を仕掛けていたのではないか。魔術魔法や精霊術魔法で追跡するのは難しい。可能性があるとすれば、赤坂が使ったのと同じ、呪術魔法。


 思えば『呪風』というコードネーム自体、呪術魔法の存在をほのめかしているではないか。彼が呪術魔法を扱うとすれば、赤坂には彼の呪術が仕掛けられている可能性が高い。


 赤坂は即座に、自分の身体をスキャンし始めた。呪術魔法は使用者の腕次第で、極限まで小型化して探知を掻い潜ることができる。それらを見落とさないよう、特に被弾した方の周辺を入念に、呪術魔法の仕掛けられた痕跡を探る。


 果たしてその呪術魔法は、心臓付近で発見された。肩で被弾した後に、エネルギーの集まりやすい場所に移動してきたらしい。呪術の効果を解析してみると、膨大な魔法力を使用して、魔術魔法に似た構造の魔法に、何かの情報を提供していることが判明した。図らずも、『呪風』の呪容体が初めて解析された瞬間である。


 これにより、赤坂が連日感じていた疲労の正体も判明した。この呪術魔法がエネルギーを消耗していたために、彼女は常に、回復しない疲労と戦い続けなければならなかったのだ。


 それはつまり、『怪士』を追っていた数日間もずっと、『呪風』には居場所が筒抜けだったことを意味する。対外情報局が特別情報庁に残している筋から『呪風』と『白兎』の居場所を追跡していたように、彼等もまた、こちらの居場所を監視し続けていたのである。「自分だけが知っている」という慢心に、足を掬われかけたのだ。


 赤坂は、己の血の気が引く音を聞いた。


「お父さん!」


 呪術魔法を解いて寝室を飛び出し、別室で休んでいたタイロンを呼ぶ。


「今すぐ拠点(ここ)から逃げよう! 撃ち合ってからずっと、『呪風』に現在地を捕捉されていた。私たちが彼等を追跡していたように、彼等にも私たちが追跡されていた。ここから逃げないと、またいつ襲撃されるか……!」


「そのつもりで用意していた。行先はエルステラだ、俺の代ではほとんど使われていなかったが、『閻魔』の拠点が向こうにもある。多少埃をかぶっているかもしれないが、管理は対外情報局が行っていたから問題ない」


 そんな会話がなされて三〇分後、『閻魔』の拠点には冬雪と岩倉の姿があった。追跡魔術の反応が途絶えたため、岩倉を連れて転移してきたのだ。全体は初めて見る『閻魔』の拠点は、何の変哲もないただの家のようで、既にもぬけの殻だった。


「遅かったみたいだーぁね」


 拠点内部を捜索し、収穫なしと岩倉が肩を竦める。


「私たち共和国のスパイに知られた以上、もう『閻魔』はここを使えないだろうけど、どうする、冬雪君? 本国に位置を連絡して、別のチームに調査は任せるかい? 私たちは、逃げた『黒死蝶』を追跡するということで」


「いや、無理ですね」


 冬雪は現在地の座標を地図に記すと、さっさと転移魔術を再構築した。


「『黒死蝶』はボクの仕掛けた発信機に気付いて解除しましたよ。どうやら、本来行うはずだった情報収集から、逃れるわけにはいかなかったようで」


「昨晩、キミが襲撃したはずなんだよね?」


「したんですが、精霊の防御が固くて仕留められなかったんですよ。そうこうしてたら『黒死蝶』は起きるし『天狗』は乱入してくるし、『煉獄』まで飛び込んでくる可能性を考えると、さすがにボクでも分が悪かったもので」


 なんにせよ、振出しに戻ってしまった。任務は継続である。

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