表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/220

第七話-1 枯尾花の木漏日

 結果から言えば、冬雪は失敗した。『黒死蝶』──赤坂も、また失敗していた。互いに呪術魔法を操る高度な魔法能力者でありながら、あるいはだからこそ、相手の力量を見誤り、有り体に言えば、見くびっていたのである。互いに居場所を知っている、という優位性(アドバンテージ)もまた、慢心に一役買った点は否めない。先に動いたのは冬雪の方だ。


 深夜、追跡用の呪容体で『黒死蝶』の居場所と状態を確認した冬雪は、彼女が眠っていることを確認し、相変わらず片方のベッドを空にして巻き付いているシンディを静かに引きはがして、外出の用意をした。街に溶け込む普段着ではなく、機動性と隠匿性を重視した臨戦態勢。


 襲撃だ。これから彼は、『黒死蝶』を暗殺に向かうのである。攻撃するだけであれば呪容体を頼りに離魔術行使で片付けるのだが、これでは呪容体が消滅する恐れがあり、生死を確認できなくなる。こういう仕事はやはり自分で出向くのが最善だ。


 とはいえ睡眠時を狙うのであれば、機動力はそこまで重要ではないはずだ。念には念を入れて、である。準備が整うと、冬雪は呪容体を頼りに座標を指定し、転移魔術を起動。次の瞬間には、冬雪は『黒死蝶』の枕元に立っていた。


 マナ・リボルバーを構え、狙いを脳に定める。この銃は発射音が非常に小さく、周囲に気付かれにくい。即死させることさえできれば、周囲に誰かいたとしても、気付かれるリスクを限りなく小さくできる。あとは転移魔術で拠点に戻ってしまえば、任務は完了だ。


 引き金に指をかけてから、この状態なら生け捕りにもできるのではないか、と冬雪は思い立った。欲が出たのだ。そもそも『黒死蝶』は特別情報庁に潜り込んでいたスパイ、その潜入ルートや目的や活動などを知る必要がある。既に本国では調査が始まっているが、本人を直接手に入れてしまえば、それも簡単になるのだ。


 方針転換、冬雪は銃を下ろし、『黒死蝶』に電流を流して抵抗力を奪おうとした。奪おうとはしたのだ。想定外だったのは、冬雪の探知にかからなかった魔法が発動し、彼女への攻撃を阻害したこと。電流は届かず宙に消え、何かがおかしいと直感して拳銃を構え直した冬雪に、反対に電撃が襲い掛かったのだ。


(まさか、罠が仕掛けられていたのか?)


 殺すつもりで引き金を引くが、音速で至近距離を飛翔する氷塊は結界に弾かれて霧散。シリンダーを回して光線を撃ってみるが、これも吸収されてしまう。


 攻撃が通らない。まずいな、と冬雪が思い始めると『黒死蝶』が目を開けて身体を起こし、その視界に冬雪の姿を映した。襲撃に気付いたのだ。こうなれば物質操作魔術で身体の一部を消し去るか、と検討し始めたが、実行に移すより早く、寝室の扉を開けて室内に進入する者があった。


 中年の男だ。しかし歳を感じさせない軽快な動きで一瞬で彼は冬雪に肉薄し、ナイフを振り切る。冬雪は銀魔力で間に合わせのナイフを手中に生成して合わせるが、正直気圧された。


(歳の割に機敏なこの男、まさかこいつ、『天狗』か?)


 その一瞬の隙に『黒死蝶』は拳銃を取り出し、冬雪に狙いを定めて発砲。一応間一髪で逃れたが、常人ならとっくに命を落としている。


(『黒死蝶』め、まさか『閻魔』の拠点で寝ていたのか!? 『閻魔』が庇護しているとは分かっていたが、こうなると『煉獄』もすぐ傍にいるというのか)


『煉獄』が死亡している旨は、未だ冬雪たちの耳には入っていない。しかし二人を相手にしてようやく互角なのだ、これでは三人目を警戒せざるを得ないわけで。


(あ、これ生け捕りどころか殺しも無理だ。つまり結論は──)


 迷っている暇はなかった。


(──逃げるが勝ち!)


 素早く転移魔術に潜り込み、間一髪、冬雪は脱出を遂げる。深夜の暗殺作戦は失敗。『閻魔』と組んだ『黒死蝶』の防御は、冬雪が考えていたよりも堅牢だ。

よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ