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第六話-9

 表情筋が硬直し、口の端が引き攣っている男──シンディの言うところでは班長──に、冬雪は視線を投げかけた。


「こんなところでは何ですから、ボクの車に移動しませんか」


 現在冬雪が連邦で乗っているのは、初日に乗ったマーキュリーではなく、後日追加で(シンディを通じて)手配した、ジュピテルのステーションワゴン、ルナだ。おしとやかな顔つきに見合わずなかなかハイパワーなエンジンを持つ、連邦では人気のモデルである。


 まだ状況を理解できていないシンディを助手席に、班長を一人後部座席に座らせ、冬雪は運転席に乗り込む。そして、既に自分が何を間違えたか理解している彼に、冬雪は友好の仮面を脱ぎ捨てて問う。


「お前、キャメロンの服に盗聴器仕掛けたよな」


 冬雪が張った防音幕は、彼とシンディだけが内側にいるもの。例えベッドの上で枕に頭を置いていても、枕に仕掛けた盗聴器では、二人の会話を聞き取れない。しかし服に盗聴器が仕掛けられていた場合、防音幕は意味を為さなくなるのだ。


 シンディのどこにそれが仕掛けられていたか、既に探知は済んでいる。


「こいつがキャメロンの寝間着の襟から見つかった。さすがは連邦製、小さすぎて、ボクでも探すのに苦労したよ。しかも完全防水仕様としたもんだ。洗濯しても、電池が生きている限り盗聴を続けられる。とはいえこの大きさでは遠くに電波は届かんからな、キャメロンの携帯電話を中継器にしていたんだろう」


「あ、そっか。だから最近、あーしの携帯電話、そんなに使ってないはずなのに消耗激しかったんだ」


「キャメロンの私物に残っていた指紋から、DNAが採れている。そして魔術での分析が今終わった。お前のDNAと一致する。部屋に侵入したり、私物を漁っていたのもお前だな。申し開きは……なさそうだな」


 蒼白になった班長は、小刻みに震えながら、視線を落としていた。だが冬雪は彼の所業を暴いたところで、話を終わらせるわけにはいかない。


「それで──お前は、どっち(・・・)だ?」


 それによって、対応が変わる。恐らくこっちだろう、と冬雪はあたりを付けてはいるが、実際にどうかは分からない。なので問う必要がある。答えさえさせれば、それだけで、冬雪の勝ちだ。答えなくとも、実行犯を掴んだ時点で、彼に負けはないのだが。


「どっち、とは」


「質問を変えよう。盗聴はお前の意志によるものか、あるいは何者かの指示によるものか、答えろ」


「それは……」


「多分、班長の意志じゃないかな。ずっと前から、いやらしい視線は感じてたし」


 つまりただのストーカーということか。しかし今のシンディの口ぶりからすると、


「おいキャメロン、あんた最初から犯人は分かっていたのか」


「確証がなかったからね。夏生くんなら、そういうの得意かと思って」


「ボクは探偵ではなく魔術師だ。それで、今の話は本当なのか?」


「いや違う、ぼくは別の人間の指示でやったんだ!」


 その台詞に、冬雪の契約精霊が微細な嘘の気配を察知した。完全に嘘ではないが、完全な真実でもない、そんな発言。


 諜報機関にはよくある話だな、と冬雪は納得した。どちらでもあり、どちらでもなかったのだ。


「なるほど、お前はただ、キャメロンに向けていた下心を利用されただけか。これは情報刑務所行きかな」


「情報刑務所……!?」


「流石は国営放送局の政治部、情報刑務所について、多少の知識はあるようだな。まあ、二度とキャメロンに手を付けず、こちらに寝返るというのなら、少しは考えてやらんでもない。ただしリスクは跳ね上がる」


「いや無理」


 しかし一瞬見えた一縷の望みを、シンディは即座に断ち切った。


「もうこの人と仕事はしたくないかな」


 そして冬雪は、シンディの意見を支持する。


「だそうだ。ということだから、お前はもう、用済みだ」


 青白い光が、後部座席の裏切者から意識を刈り取った。

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