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第六話-7

 翌日以降も冬雪への嫌がらせは続き、同室のシンディもうんざりし始めていた。


「そもそもこれ、目的はなんなの?」


「ボクの精神的な疲労を誘うことじゃないか? 鼠の死骸やら泥水やら生ごみやらを連日部屋に巻き散らされていては、少々堪えるからな。『黒死蝶』暗殺任務への抵抗というところだろう。徹底して姿を見せず、痕跡を残さず、あくまで直接的に手を出して来ないあたり、やり合ったら勝てないことが分かっているな。利口な相手だ」


「褒めてる場合なのこれ」


「とはいえ、キャメロンの方に影響が波及しているのは良くないな。あんたの私物が漁られたのは、あの日の一回だけみたいだが……ひとまず、毎日毎日性懲りもなく忍び込んでくる対外情報局の防諜員(推定)をささっと始末しておくか。いい加減鬱陶しくなってきた」


 そんなことが可能なのか、とシンディは首を傾げていたが、証拠を残さない相手でも、やりようはある。それも、恐らく冬雪以外誰にも不可能なやり方が。例によって、登場するのは万能魔法の呪容体だ。


 部屋に侵入して汚物を散らかしていく以上、侵入者の通路はパターンが限られる。出入りする経路として考えられるのは玄関とベランダの窓、階層からして他の窓は考えづらい。日本で流通していたスパイ作品では天井の通気口を通るやり方もあったが、実際にはフィルターや配管や様々な装置が設置されて狭いので、現実的にはありえない。


 そしてベランダの窓も、連邦の技術力で侵入するとなれば、両隣の部屋を経由してベランダの仕切りを乗り越えて来るか、避難梯子を使用して、上下階から入ってくる経路が考えられる。しかしベランダはそもそも目立つし、余計な時間の浪費が発生する。工作員的に避けたい条件が揃うので、ほとんど排除できる可能性だ。


 そういうことで、冬雪は罠を玄関だけに仕掛けた。先んじて調べたところ、鍵穴にピッキングの痕跡はない。相当上手い人間が操作した可能性はあるが、シンディが部屋の鍵を鞄に入れて持ち歩いているため、複製された可能性も高そうだ。彼女には冬雪が、「管理には気を使え」と苦言を呈した。


「これで終わりだ。あとは獲物がかかるのを待つだけだな」


「本当にこれ、何か仕掛けたの? 何も見えないけど」


「あんただって、自分に何か仕掛けられているのに気付いていないだろう? そういうことだ」


「夏生くん、あーしを丸裸にしたいのは分かるけど、そういうのはどうかと思う」


「冗句が鈍っているあたり、あんたの精神にも少なからずダメージが入っているみたいだな」


 それが尺度なのもどうかと思うが、相乗効果というものも馬鹿にできない。初日以降、二台あるベッドの片方がずっと使われていないのにも関係があるだろう。


「ボクじゃなかったらとっくに女にされていたんじゃないか」


 と言ってやれば、


「君じゃなかったら同棲も同衾もしないよ」


 と真面目な顔で返されたので、さてこれは重症である。特別情報庁の工作員(スペシャリスト)の同胞としても気の置けない一人の友人としても、早急に問題に対処すべきだ。


 そうしていつもの如くシンディに抱き枕にされた翌日、仕掛けた罠が早速機能した。二つ。

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