第六話-6
二回侵入があったことは、私物の漁り方が証拠になる。冬雪狙いとシンディ狙いがいたようだが、先に侵入したのは冬雪狙いの方だろう。冬雪が気付けたのは私物に呪容体を仕掛けておいたためで、これを抜きに外見だけで判断しようとすると、彼の目では漁られたことに気付けたかどうか。
それは恐らく、シンディ狙いの侵入者も同様だ。そしてここから、侵入があった順番も推測ができる。シンディの私物が先に漁られていたのなら、冬雪の私物もそれに合わせて派手に散らかしておけば、容疑を被せることができたのだ。そうでないということは、シンディ狙いの侵入者が後から来たという証拠になる。
(ということは、少なくともキャメロンが狙われているのは事実みたいだな。問題は、狙われているのが特派員のキャメロンなのか、連絡係のキャメロンなのか……。それによって、狙うの意味も対応も変わってくる)
残しておいた呪容体が減っていないので、シンディの私物が盗まれたという被害はないようだ。何がしたかったのかは分からないが、彼女から聞いていた現象と一致する。やはり同一人物の犯行と見て良いだろう。
冬雪は、自分の荷物を漁った誰かについてはほとんど気にしていなかった。盗まれたものはないし、増えたものもない。どうせ相手は連邦の対外情報局だろう、何がしたいのかといえば、多分ただの嫌がらせだ。冬雪たちを殺すのは困難だと判断して、徹底的に姿と痕跡を隠して嫌がらせする方針にしたのだろう。
理解できる。冬雪も諜報機関の人間だから、方針は全然理解できる。嫌がらせで精神的に疲弊させ、やる気を集中力を削ぐつもりなのだ。だとすれば効果的である。冬雪は既に、任務を投げ出して帰りたくなっていた。出国前から居場所を追跡され、暗殺未遂と嫌がらせを繰り返されていれば、うんざりもしてくる。
とはいえ敵が明らかでどうしようもない方は、もう放っておくしかない。冬雪はシンディに余計なことを考えさせるつもりはなかった。彼女は彼女で、精神的に疲弊しているはずなのだ。
などと考えたことが知られれば、確実に彼女はからかってくるのが目に見えている。冬雪としては、徹底的にポーカーフェイスを貫いて、一切悟らせないようにしなくてはならないのだ。
……結果から言えば、その決断は一日で無駄になった。
「うわ、酷い臭い」
翌日夕刻、部屋に戻ってきたシンディの、第一声がこれである。この日は冬雪が帰りに迎えに行っていたので、玄関を開けたのは二人同時だ。故に彼も、ぶちまけられた鼠の死骸を隠す暇はなかった。
「なにこれ、今までこんな変な嫌がらせはなかったんだけどな」
「いやすまん、多分これはボク宛だな」
「夏生くんの?」
「もうこの際だから共有しておくが、ボクはボクで、嫌がらせを受けているんだ」
防音幕を張って答えたことで、シンディはその意味を正確に理解したようだった。
「対外情報局か」
「確証はないけどな。状況証拠からして、多分そうだ。他に考えられん」
「これはつまり、悪戯に傷ついた夏生くんを慰めることで、あーしが夏生くんの心の隙間を埋めて距離を詰めるっていう……」
「そんなイベントはない。そもそも詰めるも何も、昨日の夜だってゼロ距離だっただろうが。ベッドは二つあるというのに」
「へへっ、今夜も抱いてくれるんだよね?」
「誰も聞いていなくて良かった、語弊しかない」
防音幕を張っていなかったら、盗聴が怖かったところだ。
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