表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/222

第六話-6

 二回侵入があったことは、私物の漁り方が証拠になる。冬雪狙いとシンディ狙いがいたようだが、先に侵入したのは冬雪狙いの方だろう。冬雪が気付けたのは私物に呪容体を仕掛けておいたためで、これを抜きに外見だけで判断しようとすると、彼の目では漁られたことに気付けたかどうか。


 それは恐らく、シンディ狙いの侵入者も同様だ。そしてここから、侵入があった順番も推測ができる。シンディの私物が先に漁られていたのなら、冬雪の私物もそれに合わせて派手に散らかしておけば、容疑を被せることができたのだ。そうでないということは、シンディ狙いの侵入者が後から来たという証拠になる。


(ということは、少なくともキャメロンが狙われているのは事実みたいだな。問題は、狙われているのが特派員のキャメロンなのか、連絡係のキャメロンなのか……。それによって、狙うの意味も対応も変わってくる)


 残しておいた呪容体が減っていないので、シンディの私物が盗まれたという被害はないようだ。何がしたかったのかは分からないが、彼女から聞いていた現象と一致する。やはり同一人物の犯行と見て良いだろう。


 冬雪は、自分の荷物を漁った誰かについてはほとんど気にしていなかった。盗まれたものはないし、増えたものもない。どうせ相手は連邦の対外情報局だろう、何がしたいのかといえば、多分ただの嫌がらせだ。冬雪たちを殺すのは困難だと判断して、徹底的に姿と痕跡を隠して嫌がらせする方針にしたのだろう。


 理解できる。冬雪も諜報機関の人間だから、方針は全然理解できる。嫌がらせで精神的に疲弊させ、やる気を集中力を削ぐつもりなのだ。だとすれば効果的である。冬雪は既に、任務を投げ出して帰りたくなっていた。出国前から居場所を追跡され、暗殺未遂と嫌がらせを繰り返されていれば、うんざりもしてくる。


 とはいえ敵が明らかでどうしようもない方は、もう放っておくしかない。冬雪はシンディに余計なことを考えさせるつもりはなかった。彼女は彼女で、精神的に疲弊しているはずなのだ。


 などと考えたことが知られれば、確実に彼女はからかってくるのが目に見えている。冬雪としては、徹底的にポーカーフェイスを貫いて、一切悟らせないようにしなくてはならないのだ。


 ……結果から言えば、その決断は一日で無駄になった。


「うわ、酷い臭い」


 翌日夕刻、部屋に戻ってきたシンディの、第一声がこれである。この日は冬雪が帰りに迎えに行っていたので、玄関を開けたのは二人同時だ。故に彼も、ぶちまけられた鼠の死骸を隠す暇はなかった。


「なにこれ、今までこんな変な嫌がらせはなかったんだけどな」


「いやすまん、多分これはボク宛だな」


「夏生くんの?」


「もうこの際だから共有しておくが、ボクはボクで、嫌がらせを受けているんだ」


 防音幕を張って答えたことで、シンディはその意味を正確に理解したようだった。


「対外情報局か」


「確証はないけどな。状況証拠からして、多分そうだ。他に考えられん」


「これはつまり、悪戯に傷ついた夏生くんを慰めることで、あーしが夏生くんの心の隙間を埋めて距離を詰めるっていう……」


「そんなイベントはない。そもそも詰めるも何も、昨日の夜だってゼロ距離だっただろうが。ベッドは二つあるというのに」


「へへっ、今夜も抱いてくれるんだよね?」


「誰も聞いていなくて良かった、語弊しかない」


 防音幕を張っていなかったら、盗聴が怖かったところだ。

よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ