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第六話-4

 翌朝早く、岩倉が冬雪たちの部屋を訪ねてきた。


「朝食でも一緒にどうかと思ってね」


「お断りします」


 即刻玄関先で断ったが、冬雪も岩倉の狙いは分かっている。今後の相談だろう。それが分かった上で、冬雪は否と突きつけた。通信魔術があるからこれで事足りる、というのもあるが、他にも事情がある。


「ご飯食べようよお、夏生くん……」


「ご覧の通りのありさまで、少し動けるまでに時間かかりそうでしてね」


 まともに目の開いていない状態で腰に張り付いているシンディを指して、冬雪は苦笑した。


「……それ、ボスの連絡係(メッセンジャー)かい?」


「ええ、まあ彼女にもいろいろあるんでしょうが……」


 同衾した事実は伏せつつも、昨晩から引き続いて甘え方が激しい。今回はやむを得なかったが、これはあまり、人前に出せる状況ではないだろう。


「それでなくとも、あなたと朝食をともにするなど御免被ります」


「私、そんなに君に嫌われるようなことしたかーぁな」


「とにかくお引き取りください。落ち着いたらこちらから通信入れますので」


 岩倉を追い出すと、冬雪はずっと巻き付いているシンディを見下ろした。


「昨日の夜よりも、幼児退行が進行していないか?」


「朝は力が入らないんだよお……」


「夜もかなり力は抜けていた気もするけどな。というか、力が入らないと言う割にはしっかりとボクにしがみついていたようだったが」


「それとこれとは別」


「別なのか」


「他にも理由はあるけど……ちょっと耳貸して」


 冬雪が姿勢を低くすると、シンディは後ろから抱き着くようにして、耳元に口を近づけた。


「防音幕張って」


 言われた通りにすると、彼女は髪で口元を隠しながら小声で話し始めた。


「あまり時間かけないように、手短に言うよ。多分、あーしのいる取材班、裏切者が隠れてる」


「急に目が覚めたな。その根拠は」


「そりゃあ朝に弱いあーしは、万が一裏切者に見られてたときのための擬態だからね。根拠ならもちろんあるよ。共和国内で出国の準備をしてたとき、まずは一度、あーしの鞄が姿を消した。すぐ戻ってきたし、盗まれたものはなかったけどね」


「いや半分くらいは素でやってただろう。犯人が取材班にいるとは限らないんじゃないか?」


「昨日の夜のは擬態でもなんでもなかったけど、今朝のは八割演技だよ。似たようなことは、セリプウォンドに行ったときにも起きててね。取材班のメンバーは今回と同じだよ。鞄が見つからなかった時間も何も盗まれてなかったのも同じ。それを夏生くんに、個人的に相談しようと思ってね。急遽部屋を同じにしてもらったというわけだ」


「思ったより重要な理由があったのか。けど、それって本当に裏切者と呼ぶような相手なのか? 信じがたいが、あんたのストーカーという可能性もあるのでは?」


「何が信じがたいのかは分からないけど、その可能性は残ってるね。だから、アルベルトのおっさんじゃなくて、先に夏生くんに話したというわけだよ」


 シンディが背中から降りたので、冬雪は防音幕を解除して立ち上がった。その後はシンディが仕事に出るまで何事もなかったかのように生活し、彼女が部屋を去ると、冬雪は再度防音幕を張り、岩倉に通信を繋げる。伝えた内容はこうだ。


「『黒死蝶』の件は一旦保留しましょう。先に片付けないといけない用事ができましたから」

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