表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/221

第五話-4

 先進国家連邦の暗殺者組織『能面』を捜査中、『七星』が本庁とのやり取りに雇っていた連絡係が姿を消した──。


 工作員として、ありえない話ではない。むしろそれなりには観測されている事象だ。工作員本人を叩くのは難しいが、訓練を受けていない協力者は、発見できてしまえば処分は容易い。特に連絡係は工作員の生命線だ、行動を阻害したければ、工作員本人を攻撃せずとも、連絡係を消してしまえば、それだけで工作員は動けなくなる。


『七星』の連絡係、ウェンディが姿を消した翌日には、特別情報庁が臨時の連絡係を送り込んできた。『硝石』と名乗る青年が伝えたのは、ウェンディが警察によって逮捕された、という事実である。


 罪状は商店における品物一〇点以上の窃盗、目撃証言は多数。内容が軽いことには軽いので、警察はわざわざ発表することはしなかったのだ。よって、特別情報庁の工作員(スペシャリスト)に雇われた協力者であることを知らなかった警察は、彼女の逮捕を特別情報庁に知らせず、『七星』も事態を知るのが遅れた、ということらしい。


「まずいことになったな」


 ひとまず『七星』は『硝石』を通じ、特別情報庁にウェンディが逮捕された経緯を調べるよう求めた。彼は何も、連絡係にするのは誰でも良かったわけではない。事前に人格や行動に問題がないかを、協力者を雇う前には必ず調べている。そのうえで、ウェンディが窃盗事件を起こしたというのが疑わしく思えたのだ。


 しかし警察も、証拠もなしに市民を逮捕することはない。強引な捜査が行われ、世間で問題視されることが(国防機関の仲間として誠に遺憾ながら)ないことはないが、それも相応の客観的物的な証拠があってのことである。ウェンディの件も、指紋や目撃証言などで裏付けがされており、突き崩すのは容易ではなかった。


 一方で、警察によって握り潰された証言が、ひとつだけ浮上した。弟のルイが、事件発生時刻、全く別の場所でウェンディのアリバイを主張していたのだ。捜査関係者は子どもの戯言として一蹴したようだが、それにしては証言内容が具体的で、現実味がある。


 疑問に思って『七星』自身が聞き込みに出ると、ルイが証言した地点の周辺で、確かにウェンディの目撃証言があったのだ。これは奇妙なことである。同じ顔、同じ指紋を持つ別の人間が、この世界に存在するとでもいうのか。でなければ説明がつかない。


 ともかくこれを見落としていたのは警察の不手際だ。証拠不充分を理由に特別情報庁から警察に働きかけ、逮捕から一週間が経つ頃には、ウェンディは秘かに解放された。あくまでもミスを認めたくない警察は、ひっそりと最小限の人数しか知らない形で釈放したが。


 その後は再度、『硝石』を通じて『七星』はウェンディと会う指示を取り付け、ギルキリア市内の庁舎街で相談していたところに冬雪が現れる。以降は冬雪が持ってきた『幻影』からの提案を呑み、『七星』はウェンディという連絡係を手放すと同時、『能面』の合同捜査に参加することになる。


 彼の知らない場所では、ルイが司法省総合司法局に侵入していた事件もあったわけだが、これを『七星』が知るのは、『恵比寿』という能面の便利屋を冬雪が拘禁してからのことだ。


 ……揺れる小型船の中、朦朧とした意識の中で、二等工作員の『七星』は締め括った。


「これが、僕の知る『能面』捜査の全容だ。結局大したことはできなかった」

よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ