第五話-2
ヒューミントというものは、実は工作員本人が駆け回って情報を拾い集めるわけではない。多くの場合は大量の協力者を使って情報源に接近させる方法で、工作員は協力者を作り、それらを運用する役目を持つことになる。
『七星』が行うのもこの方法で、彼は主に、ギルキリア市内に巨大な情報網を敷いて活動する防諜員だった。
彼はまず、特別情報庁が引き出した情報をもとに、『能面』の二名が入国したとされるスヴィールの防諜チームに連絡を取った。彼らに捜査の協力を依頼し、足取りを追ってもらうと、どうやら敵は二手に分かれて移動したようで、一方は追跡が不可能になってしまった。
しかし片一方は辛うじて協力者が目撃していたため、鉄道を利用してセリプウォンド市に向かったのではないか、という情報が返ってきた。
(目的地はスヴィール市ではなかったのか)
特に不思議なことではない。共和国領で最も連邦に近く、航海日数が少なく済む国際港があるのはスヴィール市だ。海路を最短経路で渡り、目的地への移動を陸路に切り替えるのは、軍人や工作員に限らず、一般市民も普通に行っている移動法である。
『七星』は、次いでセリプウォンド市の防諜チームに協力を依頼し、スヴィールで目撃された『能面』の人間の情報を伝えて、それらしい人物が来なかったか、調べさせた。その結果、どうやら目的地はセリプウォンド市でもなかったようで、今度は車で東方へ向かったようだ、という情報が返ってきた。
困るのは、移動手段が自動車だったことである。鉄道であれば乗車した路線から行先を絞り込み、限定した地域を捜索することができるが、自動車は鉄道に比べ、移動の自由度が比較にならないほど高い。高速道路に乗っていれば降りる地点は限られるが、その後撹乱のために引き返したり、進行方向を変更したりすることも容易だ。
『七星』はこの捜査に当たり、三度大きな壁にぶつかった。その一つ目が、早速敵の行き先を見失ったこの時点である。
そもそも捜査命令が発された時点で『能面』構成員の入国から二週間が経過していたのだ。捜査で獲得できる情報は古くなればなるほど確実性を失い、「似たような人物を全く別の場所で見た」などという証言まで出てくる始末。ここから消息を絶った二名の人物を探し出すのは無理がありすぎる。
本庁とてそれは理解しているだろうし、各地にある支部に情報を回して手配はしているだろうが、初動の遅れは如何ともしがたい。初めから足取りを辿ったとしても、既に共和国内のどこにでも移動できるだけの時間が経過してしまっている。
捜査開始から一ヶ月が経過した頃、ついに『七星』は、捜査方針の転換を決断した。人的諜報は一度中断だ。絡まった糸くずをほどくよりも、先端と先端を切り取った方が早い、と考えたのである。
かくして彼が次に採用した捜査方法は、移動経路を探ることではなく、最終的にどこに向かうのかを推測することだった。
そういえば今回で、まどすぱは更新二〇〇回らしいです。すごいね。まだまだ続きます。
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