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第五話-1 銀髪姉弟の真相

 特別情報庁の二等工作員である『七星』に、『能面』から共和国に潜入したと思われる、『恵比寿』と『般若』の捜査が命じられたのは、神暦五九九三年五月のことだった。当時連絡係(メッセンジャー)だったウェンディが伝えてきた、前線統括部からの命令。その内容に、『七星』は頭を抱えた。


『能面』の手の者が、共和国に潜入している。これを二名発見し、捕縛あるいは処分せよ──。


 難題である。『能面』は現在に至るまで、主に活動が確認されている先進国家連邦領内においてさえ、一名も逮捕者がいないとされている組織なのだ。


 連邦警察、陸軍情報部、対外情報局などの捜査機関が全力を挙げてこの結果、たかだか一工作員に過ぎない『七星』が、一人で捜査を行えるはずがない。しかも共和国全土に捜査範囲を広げるなど、到底不可能である。


 まず『七星』は、特別情報庁がこれまでに掴んでいる情報を、全て開示させることから始めた。前線統括部は渋ったが、ウェンディを通じて再三要求することで、最終的には認めさせることができた。とはいえ逮捕者のない、実態の掴めていない組織が相手である。与えられた情報にしても、総量はたかが知れていた。


 そんな組織の情報が、どうやって特別情報庁に知られたのか。これは初めから『能面』を探ろうとして拾ったのではなく、発端は完全なる別件からだった。特別情報庁が先進国家連邦から潜入したスパイを拘禁した際、同時に密航業者も逮捕された。そこで捕まった船乗りの一人が、たまたま前の客の会話を覚えていたのだ。


 その内容から、客が連邦の何らかの犯罪組織に属していることを知る。この時点では訳ありなだけの普通の客だ。密航を請け負う彼等にとって、客の事情の詮索は御法度。それ以上知ろうとはしなかったし、共和国に到着して客を船から降ろしたときも、会話は忘れようとした。


 ところが、たまたま共和国の新聞を読んだ際、記事に出ていた『能面』という組織の情報を見て、船乗りは確信してしまう。──あの客は、連邦から共和国に潜入しようとしていた『能面』という組織の人間なのだ、と。


 その後も会話の内容は忘れようとしたが、運悪く次に共和国に連れて来た客が連邦のスパイだったために、港で特別情報庁に待ち伏せられた船乗りは、スパイもろとも拘禁を受け、情報刑務所に収監されることとなる。


 情報刑務所で行われる、特別情報庁の尋問は苛烈だった。アンダーグラウンドな密航業者の人間の矜持など、一瞬で踏み躙られた。顧客の情報を喋らない、などという暗黙の了解は通用しない。これまでに運んだ客の情報を思い出せる限り全て吐かされ、船乗りはまず、『能面』の人間を入国させたとを話さなければならなかった。


 こうして、『能面』が入国したらしいことは特別情報庁の知るところとなったが、船乗りが見聞きした客の記憶以外、手掛かりはない。


 二人組であったことと、何やら仮面らしきものを被っていたことは判明したが、特別情報庁の前線統括部の職員や『七星』も、その仮面がどんなものなのか、脳裏に描くことができず、捜査を難航させる一助となる。


 そして『能面』が入国したというからには、何らかの暗殺目的であろうことも想像はつくのだが、狙いが不明である。いつ、だれを、どこで、どのようにして殺害するつもりなのか。これがわからないことには、どこで捜査を行うべきか、『七星』は見当も付けられなかった。


 絶対に阻止したいが、どうやって阻止していいか分からない。地獄のような任務が始まった。

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