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第四話-8

アル・シーラ(守って)!」


 振り下ろされる銀閃を、精霊術魔法の結界で防御する。間一髪だ、一瞬でも遅れていたら、冬雪夏生は任務の消滅を知らぬまま、連邦領内を歩き回っていたかもしれない。


 狙撃の用意に入った狙撃手は、死角からの直接攻撃に弱い。遠距離を狙う照準器は、視界が狭くなるためだ。そのためにスポッターがいるのだが、精霊たちはこちらが指示をしなければ、哨戒はしても、自己判断で防御や反撃をしてくれない。


(だから精霊を見張りにしたくなかったのに!)


 嘆いても始まらぬことだが、舌を噛まずにはいられなかった。


 敵が結界に驚いた隙に、赤坂は立ち上がって距離を取り、狙撃銃の支柱を畳んで遠距離用の照準器を取り外した。至近距離なのだ、そもそも長大な狙撃銃が邪魔である。できればナイフと拳銃に持ち替えたいが、なにしろ急なことで時間がなかったため、近接戦闘用の武器までは持ち出せなかったのだ。当初の予定では、彼女の役目は狙撃だけだったので。


(あとは魔術でどうにかするしかないのだけど……どこまで戦えるか)


 赤坂は目の前の人物を観察する。タイロンと並ぶ大柄な体躯、侍のように腰に下げた鞘と、抜かれて右手に構えられた長い刀、何より雄弁に身分を証明するのは、目を大きく見開き口を歪めた、特徴的な能面。


 コードネーム『怪士』、暗殺者組織『能面』に所属する、刀の暗殺者である。刀には血液の残滓が付着していて、一仕事終えて時間が経っていないことを誇示しているようでもあった。


(対人狙撃銃ファーレン5960の弾速は、二・七八ペラレイア(五・五六ミリメートル)弾で秒速五一〇レイア(一〇二〇メートル)、『怪士』との距離はおよそ二から三レイア(五メートル前後)、並みの敵なら、回避できるはずがないけど)


 物は試しだ、と赤坂は引き金を引く。狙いは『怪士』の脳幹。拳銃とは比較にならない轟音が発生し、連邦製の鉄芯入り二・七八ペラレイア(五・五六ミリメートル)弾が飛翔する。


 結論から言えば、これは回避された。回避されたというか、刀で軌道を変えられ、『怪士』が弾道から逸れた別の場所に移動していた。発砲の瞬間を読まれたのだ。しかしそれだけではない。『怪士』の今の移動速度を瞬間的に出すのであれば、魔術師が使用する銀魔力による身体強化が必要だが、連邦人であれば、こちらを用いるかもしれない。


 ロボットスーツ。関節の動きに合わせ、電力で四肢の動きを補助する機械だ。夏にも関わらず体格の隠れるような大きな服を着ているのは、これを隠すためか。


 連邦製ロボットスーツは主に力の増強を目的に設計されているため、速さを要求しない介護や工業の現場で使用されている。しかし一部の機種は、陸軍省や対外情報局が設計を行って生産し、俊敏さを目的に開発されているものがある。これらは共和国や帝国を仮想敵国として対抗するために考案されたものだ。


 流通経路の制限されているはずのこれが、一体どうして『能面』の手に渡ったのかは分からないが、連邦軍や対外情報局の人間も、忠国を誓った者ばかりではない。後方勤務の職員が小遣い稼ぎのために、どこかで横流しでもしたのだろう。よくある話だ。


 そんな横流しの詮索は後だ、後で軍警察などに情報を流し、軍法会議でもさせれば良い。今は目の前の敵を片付けるのが先決だ。とはいえ、狙撃銃の弾速ですら通用しないとなると、一体どうしたものか。


「でも敵は、こちらの動きを待ってはくれない」


『怪士』は、タイロンからも逃げおおせた足の持ち主だ。勝たせない、だけでは意味がない。確実に仕留めなくてはならない。この場で赤坂を倒せないと判断すれば、迷いなく撤退を選ぶであろう相手だ。


 横に走る銀閃をバックステップで回避し、着地の勢いのままに跳躍、そのまま飛行魔術を起動し、対空。地面に足を着けているより、制空権を持っている方が有利だ。自慢の刀が届かないと見るや踵を返す『怪士』の足元に、銃弾を一発。上半身より下半身を狙った方が避けづらい。


 問題は赤坂の手持ち弾数が替え弾倉含め一〇発分しかないことと、ファーレン5960はボルトアクション式の対人狙撃銃であり、銃弾の連発ができないことだ。そもそも狙撃銃という武器自体、近接戦闘に向いた道具ではない。であれば、別のものを撃つだけだ。

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