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第四話-6

 相変わらず疲れの取れないことを不審がりながらも、翌朝赤坂が目を覚ますと、新聞各社は揃って一面に、対外情報局の記事を載せていた。


「……こんなに直接的だとは思わなかった」


 内容は、「度重なる『能面』の犯行に対し、対外情報局は『閻魔』を総動員する」というものだ。単刀直入を絵にかいたような記事だった。そこまでしなくてもいいだろう、と赤坂がつい凝視するほどに。


 それにしても、『閻魔』を総動員するとは、はったりの利いた記事である。総動員もなにも、『閻魔』に残っている人材はタイロン一人、赤坂が今は『閻魔』の拠点で寝起きしているとはいえ、正式には『閻魔』所属の工作員ではない。それをさもまだ人が残っているかのように書き示すとは、誇大広告もいいところだ。


 問題は記事が大きくなりすぎて、外国の諜報機関に付け入る隙を与えないか、というところだが、タイロン曰く、それはあまり心配しなくてもいいだろう、とのことだ。


 最高戦力を摩耗させたのは連邦だけではない。共和国の『氷山』は全滅したし、帝国の『影法師』もかつてない被害を受けたのだ。しばらくは回復にも注力するだろう。付け入っている場合ではない。割れた天井を破ろうにも、床が腐っていては背伸びもできないのだ。


 記事が大きくなったのは、二つの要因がある。一つは歴史的にも珍しい、対外情報局の公式発表だということ、もう一つは、世間を騒がせ不安を煽る『能面』に対し、有効な対抗手段が示されたことを広く知らせるためだ。


 対外情報局は、対外情報機関だ。対外情報機関が扱う機密情報は簡単には公表できず、秘匿されることがほとんどである。これは活動が知られることが利敵行為になる危険によるもので、したがって特別情報庁や国防情報庁も同様に、公式発表で世間に情報を広めることはほとんどない。


 その珍しい対外情報局の公式発表の内容が、『能面』への対処なのだ。『能面』の犯行声明は新聞などのメディアを通し、市民も広く知るところとなる。連邦市民にとって、『能面』とは恐怖の対象だ。新聞社も市民の集まりである以上、いち早く安心材料を届けたいという意思が働いたのだ。


 こうした心理を利用して市民に、否、世界中に広く知れ渡ったこの声明は、当然『能面』も知ることになる。無視できない広がり、これ以上ない挑発だ。動かないわけにはいかない。


 問題は、『能面』が動くとして、一体どう動くのかなのだ。何らかの行動は見せるだろうが、針の上に置いた球がどちらに転がるか、これが予測できない。しばらく活動を自粛するようならばそれでも良い。だが間違って大量殺戮に走るようであれば、それは望ましくない。


 次は敵のターンだ。赤坂とタイロンが盤面を注視していると、『能面』の動きは予想よりも早く表れた。正午、ラジオで絶えずニュースを流していた『閻魔』の拠点に、電話がかかってきたのだ。赤坂が電話を取ると、相手の男はこう名乗った。


「警察庁組織犯罪捜査局報道室、ホー・ヴァン・ユー警部補です」


 ユー警部補は、赤坂も知る『閻魔』の協力者だ。警察の動きを手っ取り早く知るため、また対外情報局に都合よく警察を誘導するため、彼の存在は非常に重要となる。


「ユー警部補、警察で何か動きが?」


「警察でといいますか、『能面』絡みです。今日の夕刊には載るでしょうが、先ほど組織犯罪捜査局の『能面』担当部署宛に、犯行声明が届きましてね」


「犯行声明……?」


 赤坂が傍で会話を聞いていたタイロンに振り返るが、彼は首を横に振るのみだった。『能面』の新たな犯行について、対外情報局は、何も情報を得ていない。それはつまり、『能面』が何も起こしていないことを意味する。


「誰かの悪戯とか?」


「いえ、犯行声明の内容は、誰を殺した、ではなく、誰を殺す、という事前申告でして」


「我々対外情報局の挑発に対する、返答というところだろうな。ユー、狙われているのは誰だ?」


「外務省の官僚で、キール・エーリンという男がいます。今日は非番で、外務省舎には登庁していません。組織犯罪捜査局では、現在エーリン氏の居場所を捜査し、発見次第、陸軍情報部と協力して保護する計画です」


「居場所を確認したら、再度こちらにも情報を回せ。俺たちはエーリン氏を暗殺に来る『能面』の人間を待ち伏せる」


 この後、ユーが再度電話を寄越したのは、殺害予告時刻の二時間前であった。

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