第四話-5
まず一つ、こちらは人海戦術だ。『能面』に接触できる窓口を探すことである。方々の協力者を使い、暗殺の依頼を行う方法を模索し、ダミーの依頼によって『怪士』をおびき出す作戦。
赤坂は共和国に潜入中、『能面』の一人である『般若』と接触し、任務のために一時的に手を組んだ。タイロンはその経験を応用できないかと尋ねたが、赤坂は否定する。
「『般若』と接触できたのは偶然だった。正直、難しいと思う」
どうやって手を組んだのかといえば、潜入先の特別情報庁が捕らえた『恵比寿』の尋問によって、『般若』の潜伏場所候補を絞り込み、あとは連邦に寝返った特別情報庁の官僚が手引きした通りに捜索。発見した『般若』を脅して手込めにした、というだけのことだ。
「『恵比寿』っていう便利屋か、暗殺者の『般若』を共和国から連れて来ることができたら、同じ方法が取れたかもしれないんだけど……」
いずれも共和国の情報刑務所に収監されているし、早ければもう既に、どちらも処刑されているかもしれない。いずれにせよ、どこに収監されているかも分からない囚人を外国から連れて来るなど、現実的ではなかった。情報刑務所の囚人は、定期的に施設を移動するのである。
「だから、捕まえた構成員を使うのは現実的じゃないと思う」
「だとすると、暗殺の依頼人を絞り込むか、犯行声明を辿って組織を直接探し出すか。いずれにせよ、他の捜査と同じだな。特別に俺たちに可能な方法はないか」
そしてもう一つの手段だが、こちらも連邦警察の捜査方法とあまり変わらない。『能面』の暗殺者は顔を隠す。それ以外の身体的特徴を使って、その中身を特定するのだ。
「とはいえそれができれば」
「去年まで逮捕者が出なかったはずがないな」
『能面』はとにかく警戒心が強い。監視カメラには絶対に映らず、目撃者は抹殺され、交戦すれば負けなしの化け物揃い。現場にも証拠を残さず、手掛かりは犯行声明だけなのだ。これが現在まで連邦の捜査機関を振り切ってきた、『能面』という組織なのである。
「でも待って、お父さん、『怪士』とは戦ったことがあるって言ってなかった?」
「ああ、だがしばらく期間が空いているからな。記憶の自信はあるが、現在の姿とは異なる可能性がある」
「それなら、DNAは?」
「採取できなかった」
逃げ足が速いだけでなく、逃げるときの証拠隠滅も徹底している。そもそもどうやって交戦したのかは分からないが、DNAすら手に入らないとなると。
「一応、おびき出す方法は考えているんだが、少し危険でな。一人でやりたくはないが、誰かを巻き込みたくもない。とはいえ手段を選んでいられる状況でもないし、腹を括らねばな」
「それって……」
「ああ、『閻魔』の名前を使うやり方だ」
暗殺者組織の『能面』と、対外情報局の精鋭『閻魔』。いずれも共通点は、連邦全土にその名が知られていることだ。
『能面』はともかく『閻魔』はそれでいいのかと赤坂は思うのだが、実はタイロンが頭領になる前まで、『閻魔』は新陳代謝の激しい組織だった。殉職率が高かったのではなく、対外情報局の官僚となり、前線から身を引く者が多かったためだ。
タイロンはそれでは国防に不充分であると異を唱え、これを止めさせた。国民が知る『閻魔』は新陳代謝の激しい『閻魔』なのだ、組織名だけ知られていたところで、さしたる影響はなかったのである。
彼が発案したのは、『閻魔』が『能面』を狩るという情報を流すことで、『能面』の動きを誘発──挑発する、という方法だ。タイロンは赤坂に概要を説明すると、電話でどこかに連絡を取り、車を出して出かけてしまった。
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