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第三話-3

 運転手を交替し、マーキュリーの運転席でハンドルを握る冬雪は感嘆した。


「なんだこれ、連邦はスポーツ車でもこんなに乗り心地良いのか」


 一般に、スポーツ車はその他の自動車よりもサスペンションが固く、乗り心地は悪くなりがちだ。しかし共和国の車は、技術が追い付いていない。連邦は無論道路の舗装技術が共和国より進んでいるという事情もあるが、主要な道路ではほとんど揺れずに走行することができる。運転が、楽しい。


「楽しんでるところ悪いけーぇど、そろそろ任務の現状を確認してもいいかな」


 助手席から水を差された気分だが、実際今は仕事中なので、遮る道理はない。


「『影法師』は、確か二人だけ生き残れたんでしたか」


「そう、リーダーの『アヌビス』と、参謀の『ホルス』。『氷山』が全滅して拠点を逃げ出したときには『バステト』が生きてたようだけど、帰国する前に撃たれて死んだらしいよ」


「撃たれたっていうのが気になりますね。『氷山』で最後まで生き残ってたボスの『氷河』と『吹雪』、この二人は『影法師』の拠点に行ったときに対物狙撃銃で頭を撃たれたんでしょう? 『閻魔』の誰かかあるいは──」


「──『黒羽』。いや、『黒死蝶』かもしれないね」


『黒羽』として特別情報庁に潜伏していた『黒死蝶』が、狙撃の名手だったことは、既に知られている情報だ。『幻影』の仲間で直接交戦したアイスナー夫妻も、彼女の撃った二・七八ペラレイア(五・五六ミリメートル)弾が掠めたと証言している。これは対人狙撃銃の口径で射撃する銃弾だが、これが推測通りであれば、彼女は対物狙撃銃も扱えるようだ。


「まあいずれ分かることです。多分交戦することになるのも遅くはないでしょう。例えば……今とか」


 冬雪がおもむろにアクセルを強く踏み、エンジンの唸りを上げてマーキュリーが急加速した。岩倉には安全運転をしろと念押しした手前、あまりやりたくはなかったが、今回ばかりは仕方ない。


 その理由はすぐに現れた。急加速でボンネットがやや上向いた直後、ルーフの一点を何かが撃ち抜いたのだ。貫通したそれはリアウィンドウの手前に着弾し、岩倉の顔を引き攣らせる。開いた穴の大きさからして、二・七八ペラレイア(五・五六ミリメートル)という生易しい大きさではない。六・七五ペラレイア(一三・五ミリメートル)、対物狙撃銃の銃弾だ。


「よく今のを察知できたね?」


「正直、割と危なかったんですけどね。真正面に仰角五度程度といったところか。あのビルだな」


 冬雪は素早く側道に逃げ込み、建物の陰に隠れて狙撃の射線を遮る。ひとまずこの車で逃げ続けるのは無理があるので、冬雪たちは車を降り、弾丸の貫通した穴を観察した。


「こいつが特別情報庁の用意した車で良かったな、レンタカーだったら色々面倒だった」


「新しい車を手配するのも面倒だーぁけど、まずこの車をどうしたものかな」


「……? 穴塞げばひとまず使えはしますよ? エンジンとかハンドルとかには問題ありませんし」


「その応急修理をどうする……おや、仕事が早いね」


 冬雪が魔術魔法で、車体に空いた穴を誤魔化していく。幸いなことに、弾丸の貫通した穴は電線などが通っていない場所なので、塞ぐ作業自体は難しくなかった。


 物質操作魔術と呼ばれるこれは、その場に存在する物質の状態や結合位置、原子構造までを操作することができる、原義の錬金術のような魔術。冬雪はこれを応用し、周囲のエネルギーを探知してあらゆる物質の動きを識別する技術を独自に獲得した。狙撃を察知したのも、この能力の賜物だ。


 穴の補修は、数秒で完了した。

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