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第二話-8

 結論から言えば、休めるなどというのは楽観が過ぎた。妨害工作は、ホテルの一件だけでは終わらない。むしろ、冬雪たちが国際港で客船に乗り込んでからが本番だったと言って良い。


 まず、船の客室に入ってカーテンを開けてみた冬雪は、飛来した弾丸を、銀魔力を盾にして防御した。即座にカーテンを閉め、隣室の岩倉に通信。やはりどこかから、冬雪たちの行動予定が漏れている。


(とても諜報機関とは思えんな……)


 冬雪はカーテンと窓を僅かに開けると、武器庫から金色の狙撃銃を取り出して照準器を覗き込む。港の傍にある高層建築物の屋上から狙撃されたようだ。銃弾の飛来した角度からおおよその位置を割り出し、徐々に倍率を上げて範囲を絞り込む。やがて狙撃銃を構える人物の姿が映り込んだ。


 とはいえ、銃弾が飛来してからここまでで三秒である。次弾を用意していたらしい相手が操作を終え、再度照準器を覗き込むと、同じく狙撃銃を構え、真っ直ぐに視線が交錯する。相手がぎょっとして射線をぶれさせたところで、冬雪が引き金を引く。


 銃声はしない。なぜならこの銃も、魔導系軽火器だからだ。氷でできた二・七八ペラレイア(五・五六ミリメートル)弾を射出する対人狙撃銃、『フュール』。命中精度の高い、冬雪の特製の武器だ。


 狙撃手を射殺(生け捕りにできないため)した冬雪は、『幻想郷』のトパロウル経由で、スヴィールにいる工作員に死体などの回収を依頼し、フュールを武器庫に収納すると、船の食堂で岩倉と合流し朝食を摂ることにした。


 そして何気なく食材に興味を持った冬雪が食事の成分を調べてみると、高濃度のテトロドトキシン。共和国ではトラフグソウという名前の山菜の種で採取される、猛毒だ。無免許での所持は、もちろん違法。どう考えても食品に混入していいものではない。


「え?」


 テトロドトキシンは無味無臭のアルカロイド、非常に致死性が高い上に、熱による分解も難しい厄介者。それがここまでの高濃度となると、一周回って無邪気に思えるほどの純粋な殺意。


 誰が、とか、どうやって、とか、そういう疑問よりもまず、「よくこんなに集めて来たなあ」という感心が先に出る。トラフグソウの種は非常に小さく、テトロドトキシンの含有量は非常に微量だ。それでも、子どもくらいなら種一〇粒程度で殺せるのだが。


 とはいえそれは冬雪だから出るのであって、岩倉はただ困惑していた。ちなみに冬雪は、テトロドトキシンを合成あるいは分解する呪触媒も持っていたので、二人分の食事はしっかり解毒した。酢酸が生まれるので、割と強い酸味が生じ、朝食の味は台無しだったが。


 食後、船が出港した頃に冬雪が客室に戻ると、鍵をかけていたはずの部屋には人の気配がした。冬雪が面識のある人物全員に仕掛けている呪容体を持っていないため、岩倉ではないことが分かる。


「ばれてるぞ、出て来いよ」


 ベッドの下から飛び出してきた男を銀魔力のワイヤーで縛り、窓を開けて海に投げ落とす。まあまともに訓練された暗殺者なら、この程度の距離泳いで岸まで行けるだろう。さすがにここは海の上、拘禁して尋問して情報を引きずり出すのは少々難しい。勿体ないが。


 冬雪が侵入者を投げると同時に隣室からも誰かが投げられ、それを眺めながら冬雪が窓を閉めると、今度はしばらくして、彼は頭痛と眩暈を感じた。


 遅効性の毒を飲んだわけではない。空気を調べてみると、どうやら酸素濃度が低下し、一酸化炭素濃度が上昇しているようだ。冬雪はこれまた呪触媒で一酸化炭素を分解した。岩倉の部屋も同じことになっていそうなので、彼女の部屋も訪ね、呪触媒を置いてきた。

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