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第二話-5

 スヴィール国際港駅に到着したのは、まだ日が沈む前の時間帯だった。ギルキリア中央セリプウォンド埠頭間と比べると、セリプウォンド埠頭スヴィール国際港間の距離は六割程度になる。同じ時刻に出発し、同じ速度で走行した場合、後者は夕方には目的地に到着できる。今夜はここで一泊し、翌早朝に船に乗り込むのだ。


「昨夜はほとんど眠れなかったからねーぇ、今夜はゆっくり休めそうで良かったよ」


「とか言いつつ岩倉さん、列車の中でずっと寝てたじゃありませんか」


 おかげで冬雪は、脳に絶えずエネルギーを供給しながら起き続ける羽目になったのだ。今すぐにでも寝たい。何もかもを投げ出して、今はとにかく睡眠が欲しい。


「だというのに、なんであなたと同室なんですかね」


「そんなに嫌かい?」


「嫌です」


 ホテルのロビーで発覚した事実に、露骨なため息をつく。これが協力者の平井(ひらい)零火(れいか)が相手であれば、特に嫌な反応はしなかったのだが。


「キミがそう言うと思ったから、ボスはホテルに着くまで黙っておくようにって、わざわざ私に言ってきたよ」


「よく分かってますね。なんでこの人がいるチームに志願したんだろうな、ボクは。協力者時代にこんな人だと知ってたら、絶対別の方法探してたのに」


「二部屋は手配できなかったらしいよ。まあ急な話だったからね、仕方ないじゃないか」


「せめてベッドが別なのが不幸中の幸いか。まあさすがにな」


 同僚を不幸呼ばわりしながら、冬雪は客室の中を確認した。客室にあるのはトイレとシャワールームと二台のベッド、それに戸棚とクローゼット。いわゆるビジネスホテルのようなもので、とにかくただ、「人を泊めること」だけを目的としたホテルだ。


「この手のホテルで部屋が取れないことってあるんだ……」


 荷物を置き、ベッドに腰を下ろす。その姿勢のまま冬雪は室内のエネルギーを探知した。これは冬雪が独自に使う魔術のひとつで、エネルギーの密度や量から、どこにどのような物質があるのか、また魔法陣や魔道具が隠されていないか、ほぼ完全に調べることができる。


 その結果、冬雪は戸棚の下に、不審物を発見した。


「なんだこれ?」


 引っ張り出した箱を詳しく探知すると、小型のマイクや電波の送受信装置、タイマーのようなものが取り付けられていることが分かった。もうこの時点で既に嫌な予感しかしないが、それは箱の中のほんの一部に過ぎない。大部分を占めているのは固形状の有機物──爆薬だ。


 この単純な分子構造は冬雪もよく知っている。魔力使用者だった頃、二、三度ほど使ったことがある代表的な爆薬、ニトログリセリン。地球でいう、ダイナマイト爆弾の主成分だ。


 この部屋に入った人間を確実に殺す、という明瞭な殺意を感じる。


「もしかしてやばい?」


「もしかしなくてもやばいですよ、これ。タイマーってことは時限式、いやマイクと電波の送受信があるってことは、ボクたちが気付いた段階で起爆……したな、今これ。通電した」


「え?」


 ひとまずは爆発の被害を最小限に抑えるのが先決だ。冬雪は上空一〇〇レイア(二〇〇メートル)の高度に転移魔術を繋ぎ、爆弾を放り投げた。爆弾は亜音速で転移魔術を通過し、上昇。それから三秒後、暗くなり始めた空が輝き、一拍遅れて爆音が響いた。


「危なかった。これたまたま爆弾のある客室を引いたのか、最初からボクたちを狙って仕掛けたのかで、犯人が誰か変わりますよ」


「できれば後者だとありがたいね」


「何もありがたくはないですね」


 爆弾を発見できなかった場合、「在ることが難しい」という意味では、確かに在り難い結果にはなっていたかもしれない。


 とはいえ可能性の問題で話すのであれば、後者の方が現実味がありそうだ、というのが両者の考えである。だとすればどこかからか情報が漏れたことになるわけだが、今それを調べるのは冬雪たちではなく、特別情報庁の別の組織の仕事だった。

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