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第二話-2

 精霊自由都市共和国群の国土は、北部のメルトナ州と、南部のフォーマンダ州に大きく分けられる。これはメルトナ州とフォーマンダ州の間に細いながらも海があり、直接的な陸続きになっていないためだ。


 ギルキリア市はフォーマンダ州の極東部にあり、先進国家連邦の領土からは非常に離れている。通常共和国から連邦に渡るには、フォーマンダ州南西のスヴィール市に、鉄道で向かってから国際便の船舶を利用するか、高価ながら航空機を使用するのが一般的だ。


 冬雪の持つ能力であれば、転移魔術を用いて一瞬で連邦の領土内に移動できるものの、どこにどのように出現するか、見知らぬ土地では測れないため、この案はトパロウルによって厳に禁じられた。そもそも転移魔術自体、諜報機関や教魔科学省でもほとんど理解されておらず、使用するだけで目立つのは必然である。


「それで、結局陸路と海路で行くことになったと。まあ仕方ないことだーぁね」


 ギルキリア市の駅構内で、冬雪と合流した岩倉は吞気に笑った。彼女の探偵事務所には被保護者が一名おり、名をウェンディ・シルバーベルヒという。彼女は一五歳であり、『幻影』の見習いであるため、岩倉の事情に理解がある。そのためあまり早く帰らねば、という意識はないのだろう。問題は冬雪だ。


「娘を他家に預けるの、かなり神経使うのであまり積極的にやりたくないんだけどなあ」


 彼にも被保護者がいる。書類上は養子の娘であり、名を冬雪幽灘(ゆな)という。彼女はれっきとした一般市民であるため、冬雪の仕事について何も知らない。今回も国際魔術師協会からの仕事だということにして出てきているし、何より今年ようやく一一歳になる子供を置いていくのは、不安が大きすぎる。


「キミの保護者ぶりも、なかなか板についてきたじゃーぁないの」


「あなたの協力者だった頃から、それは揺らいでいませんけどねえ? なんのためにあのとき戦ったと思ってるんですか。はあ、まだ列車に乗ってすらいないのに帰りたい」


 早すぎるよ、と岩倉に笑われながら、荷物を抱えて列車を待つ。ギルキリア中央六時一〇分発、セリプウォンド埠頭行き急行。冬雪は昨年、この鉄道に乗ってセリプウォンド市での仕事を行っている。次にセリプウォンドに行くときは時間をかけても車で行こう、と考えていたが、残念ながら、そうはいかなかった。


 今回、セリプウォンドはただの中継地点である。セリプウォンド埠頭駅で一度列車を降り、セリプウォンドで一泊。翌朝早く、今度はスヴィール国際港行きの列車に乗り換えなければならない。これだけで二日かかる計算だ。その後は国際線で連邦に渡るため、移動だけで四日はかかる。往復すれば八日の計算だ。


「片親はこういうときに辛いなあ……」


 セリプウォンドの任務に出る前にも思ったことだが、妻がなく、実家も頼れず、親戚もいない冬雪家は、まだしばらくは苦労することになるだろう。


 いっそ冬雪が結婚でもすればいいのだが、それはそれで面倒くさい、と言って一顧だにしない。まず結婚する相手は条件が限られるし、そもそも娘と二人暮らしが前提の、現在の住居からも引っ越さなくてはならなくなる。そうなると魔道具屋としても保護者としても、複雑な行政上の手続きが必要になる。


 そうまでして結婚したいか、と言われると、なぜわざわざ愛せもしない妻を迎えねばならないのか、と冬雪が渋るのだ。それに彼には、彼に想いを寄せる少女がいる。彼女を差し置いて、合理性だけのために家族構成を変えるというのも、躊躇(ためら)われる所以(ゆえん)に違いないのだ。

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