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第二話-1 『呪風』投入

 冬雪(ふゆゆき)夏生(なつき)三等工作員が、彼の所属するスパイチーム『幻影』の拠点である『幻想郷』に呼び出された。コードネームは『呪風(のろいかぜ)』、長い黒髪を背で結ぶ、血色の右目と毒紫の左目が特徴的な青年だ。三級魔術師の他複数の魔法関係の免許を持ち、魔道具屋として共和国首都ギルキリア市に潜伏している。


 電話交換所の、存在しないはずの地下にある秘密施設、『幻想郷』。常駐する『幻影』のボス、アルベルト・トパロウル一等工作員の執務室に冬雪が到着すると、トパロウルの他に、一人の女性が先に到着していた。


 岩倉(いわくら)美花(みはな)三等工作員。冬雪の同僚だ。コードネームは『白兎(しろうさぎ)』、黒髪黒目の彼女は私立探偵として、冬雪と同じくギルキリア市内に拠点を構えて潜伏している。『幻影』加入前の冬雪は彼女の協力者の立場であり、こちらで最も付き合いが長いのが岩倉だった。


「三等工作員『呪風』、参りました」


 デスクの向こうにいる屈強な大男に到着を知らせる。そんなことをしなくても彼は冬雪の到着は分かっているだろうが、挨拶のようなものだ。この大男が、『幻影』ボスのトパロウルである。


「今回お前さんたちを呼び出した用件は、既に理解しているな」


 トパロウルは、密封されていた黒いケースから、書類を取り出して冬雪に渡した。


「先進国家連邦に赴き、対外情報局の工作員一名を処分せよ、でしたかね。また暗殺任務(ころし)ですか、なんでそこで、家庭のあるボクを使うんですかねえ」


「中を見てみろ、お前さんでないと生きて帰って来られない、危険な仕事だからだ」


「辞めてしまえそんな任務(もの)


 既に冬雪には、手紙で大まかな任務内容が知らされている。だからこそ嫌そうな声で応じているのだが、そもそも特別情報庁の工作員(スペシャリスト)は公務員、しかも下から数えた方が早い階級の彼に、拒否権などというものは初めから存在しない。


「そもそも外国に行って外国の工作員を殺すとか何の冗談だ」


「ヴァロミオだ」


「なるほど、帰っていいですかね」


「いいわけがあるか、可能なことなら俺だって他に押し付けたいところなんだぞ」


 嫌々ながらも冬雪は書類を捲り、岩倉がそれを覗き込む形で内容を確認する。その結果、トパロウルの言うことは確かに事実だし、冬雪と岩倉は、同時に顔を顰めた。


「「『氷山』が全滅、『影法師』も撤退……?」」


 岩倉は無論『氷山』を知っているし、新参者の冬雪ですら、帝国の『影法師』の噂くらいは聞いている。いずれも特別情報庁と国防情報庁の持つ最高戦力であり、並大抵のことで壊滅するはずがないスパイチームだ。


 それが、『氷山』は生存者がゼロであり、『影法師』は全滅こそ免れているものの、尻尾を撒いて本国に逃げ帰ったという。これが事実だとすればとんでもない話だ。通常の達成不可能な任務(ヴァロミオ)とは次元が違う。


「これはまた、すごい話があったものだーぁね」


「一体何が……?」


「次のページに捲ってみろ」


 さらに書類を捲ると、『氷山』の壊滅した経緯が事細かに記載されていた。曰く、共和国と帝国の最高戦力に対し、連邦もまた、彼の国の最高戦力をもって、暗殺阻止に応じたのだという。連邦唯一のスパイチーム、『閻魔』が、である。


 先進国家連邦の対外情報局は、基本的にはスパイチームを編成せず、各任務に適した人材を適宜組み合わせて行動させるのだという。しかし例外的に、最高峰の実力を備えた工作員を集めて組織された、『氷山』や『影法師』に相当するチームが存在する。それが、連邦で唯一名を持つスパイチーム、『閻魔』なのだ。


 つまり特別情報庁の命令は、冬雪と岩倉というたかだか二名の工作員を送り込むだけで、『氷山』を潰した『閻魔』を制せ、というものなのだ。難題である。


 冬雪は書類を床に叩きつけたくなったが、この道を選んだのは他ならぬ自分自身だ。結局は命令を呑み、死地に赴かざるを得なかった。

すみません、すっかり忘れて遅刻しました。

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