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第一話-6

 計画を変更しよう、と『氷河』と『アヌビス』は話し合った。彼らが帝国と共和国の最高峰に位置するスパイチームであるからには、彼らに対抗すべく、対外情報局が『閻魔』を出してくる可能性は検討するべきだったのだ。


「やはり、連携を密にしましょう。作戦終了後の心配は後回しです、このままでは、作戦を終えるまでもなく我々が全滅します」


 これには『アヌビス』も反論できなかった。無視できない事情もあるのだ。


「アタシらの協力者、特に連絡係が次々に消されている」


「そうでしょうとも、こちらも同じです。スパイ本人を叩くより、その手足を奪う方がはるかに簡単ですからね」


 とはいえ『閻魔』も無傷ではない。『氷山』と『影法師』はともに一名ずつメンバーを失っているが、これは『閻魔』と交戦して相討ちなのだ。損耗率で言えば、『閻魔』の方がより深手ともいえる。


 しかしここで、数の調整が行われた。『閻魔』の頭領、『天狗』が現れ、連邦の防諜員に囚われた連絡係を救出していた、三人のスパイを殺害したのだ。


 犠牲者は、『氷山』所属の『結露』及び『氷菓』、『影法師』からも一名出て、重傷を負いながらも逃げ出した『セクメト』が、拠点で仲間に情報を伝えてほどなくして息絶えた。


 彼が言うには、『天狗』は奇妙な仮面を着け、連邦人には到底不可能なはずの速度で攻撃を繰り出してきたという。『結露』『氷菓』も善戦したが、天狗には傷一つ負わせることはできなかった。『セクメト』はそもそも破壊工作に特化した非戦闘員のため、逃走に専念した。それでも逃げる背中に銃弾を撃ち込まれ、力尽きたが。


「そうなると、まずくねえか、これ」


『影法師』所属の『ホルス』という男が声を上げた。『氷山』は『閻魔』に拠点を突き止められたため、『影法師』の拠点に一時的に身を寄せているのだ。


「『セクメト』は逃げるために背中を向けたところを撃たれ、ここで死んだ。それだけの重傷を負わせておきながら、『天狗』が『セクメト』の逃走を許したのはなんでだ?」


 まさか、とざわめく室内で、ホルスは地図を広げ、『セクメト』の逃走ルートを指でなぞる。


「俺氏が思うに、『天狗』の奴は、『セクメト』が逃げるのをあえて見逃しておいて、どこに逃げるのかを観察されていたんじゃないのか。情報を掴んだスパイはそれを仲間に伝えようとするはずだ、瀕死の重傷でできる偽装はそう多くない。さぞかし辿りやすかっただろうさ」


「……ということは、もうそこまで来ている可能性が高いわけですか」


「ああ、いつ飛び込んできてもおかしくねえ。おいリーダー」


「分かってる。『氷河』」


「ええ。──全員、交戦の用意を」


『ホルス』の推測を信じ、『氷河』と『アヌビス』が仲間に戦闘の用意を指示しようとしたとき、拠点にしているマンションの玄関の鍵が撃ち抜かれた。通路に人の気配はない。


 様子を見に行った『氷山』の一人、『吹雪』という女性が、玄関を撃ち抜いたものが対物狙撃銃の銃弾であることを告げた。『氷河』が退避を命じた次の瞬間、二発目の弾丸が玄関から飛び込み、『吹雪』の頭が弾け飛ぶ。彼女は『氷河』を除き、『氷山』で生き残った唯一のスパイだ。『氷山』はこの時刻をもって壊滅した。


 後に残った『氷河』というスパイにしても、後を追うのに大した時間は掛からなかった。玄関と真逆の方角からの狙撃を防ぐため、『アヌビス』が窓のカーテンを閉める。ところが玄関から躍り込んできた男が一人、室内に手榴弾を放り込んだ。


『ホルス』が咄嗟にテーブルを跳ね、手榴弾の爆発からその場にいた『影法師』の三人を守った。だが『氷河』は回避が間に合わず、破片の一部が左腕を抉る。利き腕じゃなくて良かったな、と場違いな安堵のため息をつき、無事な右手で取り出した拳銃を闖入者に向けて発砲。対物狙撃銃には到底及ばないが、それなりに大口径の銃弾だ。


 おおよそ狭い室内で鳴らすようなものではない音がして、闖入者が姿勢を崩す。狙いが不正確だったため、右腕を掠めるにとどまったのだ。だが、それで充分。『氷河』は死力を絞って男を外に追い出す。しかし一瞬存在を忘れた三発目の弾丸が、『氷河』の頭を撃ち抜く。『氷山』の壊滅が、全滅に変わった瞬間である。


『影法師』の三人は、狙撃が『氷河』を狙った一瞬の隙に、窓から飛行魔術で外に脱出した。気付いた闖入者の男がそれを追ったが、カーチェイスの途中で割り込んできた何者かに車を停められ、首をはねて殺害されてしまう。


『アヌビス』たちは終ぞ知ることはなかったが、これはどさくさ紛れに『能面』の構成員である『怪士(あやかし)』が、『閻魔』の一人である『煉獄』を暗殺したものであった。


『影法師』の生き残り三人は、その後も命辛々に逃走を続け、『天狗』に軽傷を負わせた上で、帝国本国との連絡に成功する。しかし本国から帰還命令が下されたころには、狙撃によってさらに一名『バステト』が死亡しており、帰路に就いたのは『アヌビス』と『ホルス』の二人だけであった。


 彼らの帰国と前後して、共和国特別情報庁は暗殺実行のため、二名の工作員の派遣を決定する。チーム『幻影』所属、『白兎』及び『呪風』の両名である。

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