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第一話-2

 先進国家連邦に渡ったスパイチーム『氷山』のボス『氷河』は、別の船で一日早く現地に到着していた『影法師』のリーダー、『アヌビス』と合流した。お互い共和国と帝国で最高峰の実力者。今回任務で手を組むことになり、先にチームの責任者同士で顔を合わせておこう、というわけだ。


『氷河』は、『氷山』のボスという立場にしては、いささか頼りない外見の男だった。一人の人間としては、ある種完成された容貌をしていたのだが、これが特別情報庁の戴に立つ人物か、と問われれば、『アヌビス』は首を傾げてしまう。


 それほどまでに、『氷河』という男は、争いとは無縁そうな優男だった。というか、若すぎる。もしかして全く別の人間が送り込まれてきたのではないか、と『アヌビス』が疑うほどに。言葉を選ばず正直に言うのであれば、雑魚にしか見えなかった。


 一方で『氷河』は、『アヌビス』を目の前にして、「なんか違くない?」という印象を抱いていた。『影法師』の噂は、共和国にいてもたまに聞こえてくるし、『氷山』は帝国に──もっと言えば帝都に──潜入したこともある。『アヌビス』の話は、「さながら死神である」として『氷河』の耳に届いていた。


 ところが実物はどうか。死神などという評価とは似ても似つかない派手な女だ。まあある意味では死神と言えなくもないのだが、このけばけばしい女で死ぬとしたら、それはただの自業自得である。夜の店で働いていそう、というのが『氷河』の第一印象だ。


 優男とけばけばしい女。似ても似つかないこの二人が、共和国と帝国で最高峰のスパイチームを率いる工作員である。


「顔合わせに来ていただき、感謝しますよ、『アヌビス』さん」


 個室のある飲食店で、『氷河』は切り出した。


「同じ任務に駆り出されて顔も知らないのでは、同士討ちの危険がありましたからね」


『アヌビス』はといえば、『氷河』と馴れ合う気はないようだった。


「端的に、情報を。特別情報庁(おたく)に潜伏していたはずの『黒羽』が、どうして対外情報局のスパイだと発覚したのか、それを共和国の人間から聴きたい」


「そいつはまた、贅沢なお話で」


 とはいえ『氷河』の方も、元々これに関しては『影法師』と情報の共有をするつもりでいた。そのために持ってきたものを、彼は鞄から取り出した。


「これ、何か分かります?」


「……仮面。でも、ただの仮面ではないはずね」


「ええ、その通り。これが何かと言いますと──」


『氷河』が声を潜めた。


「──あの暗殺者組織、『能面』の構成員が着けていたものです」


 それの意味するところは明瞭だ。『アヌビス』が僅かに目を細めた。


「あの『能面』が、尻尾を掴まれたというの?」


特別情報庁(うち)の優秀な工作員が、二名の拘禁に成功したんですよ。私も驚きましたがね。こっちの笑った面が便利屋の『恵比寿』、こっちの角のある女の面が戦闘員の『般若』だそうです」


「『能面』は、今まで誰も逮捕者がいなかったはずじゃ……」


「つまり、この二名が最初の事例と言うわけですよ」


『恵比寿』が拘禁されたのは昨年の八月、『七星』という二等工作員の連絡係が冤罪で警察に逮捕されたのがきっかけだった。『七星』は『恵比寿』を追う任務を受けており、邪魔に思った『恵比寿』が、二等工作員の生命線ともいえる連絡係を排除しようとしたのだ。


 これに関して逮捕された連絡係を四等工作員として引き入れた『幻影』というスパイチームが、『恵比寿』の居場所を突き止め、交戦ののち拘禁に成功した。そして便利屋の『恵比寿』が共和国に潜伏していた理由というのが、一二月に拘禁された『般若』である。


『般若』の目的は、政治家の暗殺だった。しかし『恵比寿』と連絡が取れなくなったことで帰国を検討し始めたところ、連邦から特別情報庁に潜入していたスパイと一時的に手を組み、政治家の暗殺と帰国で協力することになった。


 この連邦のスパイというのが、今回の標的である『黒死蝶』だったのだ。『黒死蝶』こそ取り逃したものの、『幻影』は『般若』を拘禁することに成功した。そして『恵比寿』と『般若』の吐いた情報から、特別情報庁と国防情報庁は、『黒羽』が『黒死蝶』であり、五年前の皇帝弑逆事件の真犯人だったと突き止めたのだ。


「これが、私の知る情報の全てです」

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