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【三章終了】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。

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【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-17

 校長室の扉を蹴り開け、拳銃を構えた冬雪が見たのは、校長室の金庫に手を掛けるトパロウルと、その首元に魔法陣を光らせる若い男の姿だった。


「動くな!」


 冬雪が男を威圧する。冬雪の前評判から彼の手に握られる物体の正体に気付いたトパロウルは、自然な動作で姿勢を低くし、机で射線を遮った。賢明な判断だ。とっさにそれができなかった男は、射線上に無防備に身体を晒している。


 男──否、青年、あるいは少年と呼べるほど若い彼は、校長室に単騎で突入してきたのが冬雪だと知ると、睨みつけて魔法陣を向けた。


「貴様、『呪風』……!」


 対して、冬雪の反応は冷やかというより淡白だった。


「どこかで会ったか?」


 あんまりといえばあんまりな言われよう、閉口する少年に代わり、彼の身分を紹介したのはトパロウルである。


「トム・ランフォード、前の冬に校内で暴動を起こし、お前さんに鎮圧されて退学処分になった、お前さんの元同級生だ」


「いちいち覚えてませんよそんなの、月に何回生徒の鎮圧手伝ってると思ってるんですか。風紀委員会もいちゃもんつけて部室荒らしたくせに、どの面下げて毎回ボクを戦力に数えてるんだか。……え、ってことは校長、退学処分になった元生徒に脅されて、金庫の前にいたってことです? 『断挟』なんて重々しい二つ名が泣きますよ」


「一言も二言も多い奴だ……」


 退学者と風紀委員会と校長を一遍に煽り、冬雪が拳銃を制服の中に仕舞う。彼の場合、即座に攻撃しないのであれば、近・中距離戦闘での拳銃など無用の長物でしかないのだ。他に拳銃が役立つ場面があるとすれば、「目に見える脅威」としての存在意義くらいだが、この時代、まだ銃の有用性はそこまで高くない。


 それよりも、魔法学園に──特に元魔術科生徒に──利く脅しは、銃ではなくこちらだろう。


「大人しく投降しなければ、これを起動する」


 冬雪の指先に浮かび上がるのは、一つの緻密な魔法陣だ。通常、魔術魔法は難易度が上がるほど魔法陣が細かくなり、書き込むのにも時間がかかる。そして魔法陣が実際に有効なものかどうか、瞬時に見抜ける者は多くない。そのためこれは賭けだ。はったりだと相手が判断すれば、真偽がどうあれ、魔法陣を起動しないわけにはいかなくなる。


 その賭けに、冬雪は勝った。トパロウルが魔法陣を読み、その効果をランフォードに伝えたのだ。


「お前さんの首だけを斬れる魔術が書き込まれているな」


「なに……?」


「凄むな、元生徒のお前さんに、俺が特別授業をしてやっているんだからな」


 つい先刻まで自分を脅していた相手に冗句を言えるとは、と冬雪は感心した。


「あれが起動すれば、お前さんのいる位置の、ちょうど首の部分にだけ切り込みが入る。そうなれば大量の血を巻き散らすことになるが、すぐに死ねるほど生易しいものでもない。数分程度は強烈に苦痛を感じ、死ぬのはそれからだろうな」


「ご名答。流石です、トパロウル校長」


 恐らくトパロウルが何を言っても使ったであろう台詞を、冬雪は言った。実際のところ、この魔法陣は何の意味も持っていない。クリスやヴェルニッケと連絡を取るための暗号ですらない。


 彼としては、適当に攻撃可能であることを相手に認識させることができれば、それでいいのだ。この空の魔法陣が見破られたところで、ランフォードが攻撃を仕掛けてくるまでの一瞬で、冬雪が彼を制圧することは、充分に可能なのである。


「それで、どうするんだ? この場で死ぬか、死なぬのか。一度ボクに鎮圧されたという事実を加味したうえで、賢明な判断を望みたいところだな」


 最後の一押しだ。これで投降しないのであれば、冬雪も覚悟を決めなければならない。なお集会場裏で捕まえた男は投降を促したうえで普通に歯向かってきたので、今回もそうなるのではないか、という予想はあった。ところが、


「分かった、降参だ。正直なところ、『呪風』とやり合うって考えただけで気が滅入る」


 あまりに失礼な理由に対し、「同感だ」とトパロウルまで同意したので、冬雪は閉口しながらランフォードを拘束することになった。

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