【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-16
容赦をしないということは、戦い方を選ばないことと同義ではない。
侵入者の男の方は事態を大きくしても目的を達成できればいいのだが、冬雪の目的は、混乱を起こさずに事態を静かに収束させることである。戦い方はまず、目立たず、目立たせないことを念頭に入れなくてはならなかった。
その上で冬雪が選ぶのは銀魔力、最も基礎的な魔術魔法であり、学園生徒唯一の二つ名持ちである彼にとって、扱うことなど造作もない魔術。座学実技共に低空飛行のシンディでさえ、使うのに対して苦労はしないであろう普遍的な技能。おおよそ対人戦闘に向いているとも思えない、初心者の戦術。
しかし銀魔力は、その習得難易度の低さに反し、非常に汎用性の高い魔術でもある。
魔力を金属的性質を持つ物質として実体状態に保つ、ただそれだけの技術でありながら、冬雪は学園の多くの生徒(魔術科に留まらない)との模擬戦闘において、銀魔力のみで完勝している。例外はクリスやヴェルニッケくらいなもので、銀魔力はその単純な性質が故、非常に応用が利く魔術でもあるのだ。
此度の戦闘では特に、風を使用した防音幕の魔術を維持し続ける必要がある。このため、銀魔力というもはや呼吸のような難易度で考える必要すらない魔術は、非常に都合が良かった。
突進してくる男が握るナイフに、冬雪は銀魔力製の短剣を合わせ、刃を滑らせて受け流す。同時に銀魔力を変形、一歩踏み込んでナイフを一閃。男が引けばナイフは剣になり、槍になり、大鎌が逃げ道を塞ぎ、大斧が身体を断ちにかかり、大槌が潰しにかかり、籠手が顎を打ちに狙う。
男の方も、回避してばかりではない。冬雪の武器にナイフを合わせて反撃の機会を窺い、冬雪の攻撃の合間には手刀や蹴りで応じる。もっとも、銀魔力で身体機能を強化する彼に、その程度の攻撃は児戯にも等しい。
冬雪は、疑問を感じ始めていた。
(大それたことをしでかそうとする割には、弱すぎる)
衝撃波で男を吹き飛ばし、姿勢を崩したところで上から打ち抜いて気絶させ、氷漬けにして拘束。この程度の敵が学園のセレモニーに侵入し、一体何をしようとしていたのか。結局目的を訊きそびれた男の氷に腰かけ、顎に指を添えて冬雪は考える。
全く無警戒だった場所からぞっとする気配を感じ取ったのは、そんな瞬間だ。
(まさか──)
飛び上がるように立ち上がり、氷に閉じ込められた男を睨む。
(こいつも陽動なのか?)
王族や貴族の集まる場すらも陽動として扱っておいて、その目的は一体何か。しばらく考えた冬雪は、集会場内に集まる人の気配を探り──、
「しまった!」
集会場で壇上にいるはずのヴェルニッケに侵入者を拘束した旨を伝え、冬雪は校舎の屋上に舞い戻る。階段で校舎に入り、裾の長い制服をはためかせながら廊下を疾走、気配を頼りに到着したのは、校長室の扉の前。
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