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【新章開幕】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。
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【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-15

 魔術魔法における魔法陣には、魔力の流れを決めるために、様々な図形が使用される。当然出鱈目に配置したところで意味のあるものにはならず、何の効果も持たない落書きにしかならない。そして魔法陣というものは、ほとんどの人間には、それが意味のある魔法陣なのか、どんな効果を持つ魔法陣なのか、見ただけでは理解するのは難しい。


 例外は冬雪やクリス、ヴェルニッケなど、一部の優秀な魔術師だ。


 クリスとヴェルニッケは、セレモニーを非公然的に警備するための人員として、冬雪を選んだ。彼にその任務を依頼する際には、情報の漏洩は確実に防がなければならない。そのため二人は、魔法陣を使った暗号で、冬雪に連絡する方法を考案した。


 初めに暗号による連絡を行ったのは、魔道具研究部に零火が加入した日だ。多少のトラブルがあってヴェルニッケが怒鳴り込むという、些か想定外の導入とはなったが、元々仲の悪かった彼等の間で起きたことでもあり、むしろ自然な印象を形成した。


 そこで手渡された魔法陣が、魔法理論的に無意味であると一瞬で見抜いた冬雪は、それが暗号であることにも一目で気が付いた。嫌味の応酬で余計な時間を浪費したが、ともかくこれで、暗号の使用と秘密警備の任務を冬雪に認識させたのだ。


 後日生徒会の役員が冬雪に渡した封筒にも同様の暗号が入っており、冬雪は会話を行いながら、封筒の上から暗号の内容を読み取った。彼はその場にある魔法力の配置を感じ取る能力がある。この暗号によって冬雪は、生徒会から風紀委員の当日の配置場所に関する情報を受け取った。


 どうやら今回選ばれたNOCには冬雪以外の人間もいるようだ、ということは、冬雪は気付いている。だがNOCはその存在を決して他者に口外せず、他の生徒はそんな者が存在することさえ知らない。冬雪にとっても、それらは自分の仕事を邪魔するかしないかでしか興味のないことだ。


 事実として、クリスたちも他のNOC数名に期待してはおらず、あくまで本命は、冬雪夏生という化け物一人であった。


「鳳は龍神の乱心を抑えり、か……」


 風紀委員の配置場所を知り、生徒会役員に放った一言を、その日の夜に冬雪は反芻していた。そして自嘲した。


「まったく、在校生でありながら既に二つ名を獲得したというそれだけで、とっくに目立っているというのにな」


 あとはせいぜい、上手く溶け込み、あるいは不審に思われないよう普段通りに行動しながら、学園内で秘かに警備をしていればいい。何事もなければそれで終わり、いつもの評判通り、自由で奇行ばかりの『呪風』という、学園の名物であればいい。


 しかし何事か生じれば、周囲に不信感を与えずに、事態を収束させる働きをしなければならない。その有事の際というのが、今である。


「一度だけ警告だ」


 目の前に立ち尽くす男に向け、先ほどまでの講釈と変わらない表情で、冬雪は指を立てる。


「ここで大人しく投降すれば、特に学園では痛めつけることはしないし、ボクとしてはその方が楽だから大助かりだ。そもそもこういう企みは、存在を察知された時点で九割負けと言って差し支えない。大人しく諦めれば、まあ目的にもよるだろうけど、王国法でも量刑は多少軽くなるだろう」


 とはいえここには王族や貴族も来ているのだ、投降しても反逆未遂罪、処刑の可能性は残っている。


「でもボクの降伏勧告に従わず突破を試みるなら、ボクも容赦はしない。運びによっては腕の一本くらいは覚悟してもらう。ヴェルニッケの驚いた顔が見れるならそれも一興だけど、面倒だからな。賢明な判断を望むよ」


「ふざけるな!」


 男が吼える。直前に防音幕を展開したため、周囲には聞こえない。


「ここまで来て、諦めるはずがないだろうが!」


「まあ、そうなるよね」


 警告はしたのだ、もう男にかける情けは潰えた。

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