【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-12
王立ギルキリア魔法学園創立二〇〇年記念セレモニー当日になると、学園の中は招待客でごった返した。参加できるのは学園の生徒とその家族、卒業生、王国の各界有力者、貴族、王族。その数、およそ三〇〇〇人。
生徒会と風紀委員会は、入場者整理と招待状の照会に奔走した。学園の生徒はせいぜい五〇〇人、そのうち生徒会役員は一五人で風紀委員は四〇人程度、警備に射撃部員を借りてきても、人手は圧倒的に足りていない。クリスとヴェルニッケは彼らの悲鳴をBGMにしながら、次々と舞い込んでくるトラブルの報告に対処しなくてはならなかった。
シンディは既に、セレモニー会場に入って席を確保していた。アルテミエフを通じて知り合った手芸部の部長と雑談しながら隣の席に座り、開式を待つ。途中席を間違った来場者を案内する場面もあったが、初めてのことではないので苦労はほとんどない。
一方で、魔道具研究部の出店も営業を始めていた。アルテミエフと零火は慣れないながらも接客に励み、冬雪が用意した魔道具を来場者に販売していく。中には貴族が買いに来て緊張する場面もあったが、なんとか無事に商品を渡すことに成功。ほっと一安心するのも束の間、今度は王族が覗きに来て、気の休まる暇がない。
来場者の入場受付が終わり、生徒会役員や風紀委員会や射撃部員が学園内に散っていくと、冬雪も部活の出す店を回り始めた。当然と言えば当然ながら、奇行を繰り返す魔道具研究部の部長、という評判が知られ渡っているため、どこに行ったとて対応は、「触らぬ神に祟りなし」とばかりである。
例外はアルテミエフが兼部する手芸部くらいなものだ。手芸部の部長はセレモニーの会場にいるので、店に行っても会わなかったが。
文学編集部と芸術部が合同製作した冊子を読みながら校舎の屋上に登り、学園内全域を眺める。遮るものがない場所では風が鬱陶しい。魔術で風速を調整、遠見の魔法陣を使ってセレモニーの会場である集会場を観察する。
今のところ、学園内は平和そのものだ。一〇年に一度しかないセレモニーは参加生徒全員が初経験であるため、トラブルは絶えないようだが。適当に風で音を拾ってやると、クリスやヴェルニッケの懊悩する声が聞こえてくる。いい気味だ、せいぜい苦労するがいい。
零火たちも頑張っているな、と冬雪は音を拾って思った。政財界の大物が集まるため、店に来る客もそういった人物もいる。緊張が絶えないだろうに、今のところ、落ち着いて接客できているようだ。アルテミエフは特に、シャロンで意外と耐性が付いているのかもしれない。
料理部の作った軽食を口に運んだとき、冬雪はふと、奇妙な気配を感じた。彼にとっては大した脅威になるほどのものではない、しかし不穏な空気を纏った、看過できない気配。
(風紀委員会が気付くか、射撃部で制圧できればいいけどな)
軽食の残りを口に押し込み、水で流し込んで胃袋に収めると、冬雪は状況の注視に意識を傾ける。不穏な気配は人込みをすり抜け、風紀委員ともすれ違う。残念ながら、気付いた様子はない。ヴェルニッケに通報するか、と風の魔術を設定し始めたところで、冬雪は別の気配にも気が付いた。
(これはセレモニーの会場の方向だな。セレモニーはそろそろ始まった頃か?)
会場の音声を盗聴してみると、生徒会の役員が司会を行い、セレモニーの開式を宣言したところだった。集会場は密室だ。何かあった際に対応が遅れれば、閉じ込められた来場者が逃げ遅れ、重大な被害が出る可能性がある。
(これが連携された同一目的の行動の場合、片方は恐らく陽動だな。本命は会場の方か。陽動は……おっと、向かう先は魔道具研究部の店か? だとしたらそいつの目的って? 陽動ならどこでもいいだろうが……)
すぐに動けるよう姿勢を整えてはいるが、冬雪は自分がどちらに向かうべきか、計りかねていた。
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