【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-10
セレモニーにおいて、各部活は幹部の出席を求められる代わり、時間を限り、生徒会に申請を出せば、文化祭のような店を出すことが認められる。創立記念セレモニーは一〇年に一度、開催年に在籍する生徒にとっては、一大イベントに他ならない。
魔道具研究部の部長である冬雪も、生徒会に申請を出した一人だった。
「製作した魔道具の販売? それ、危ないものじゃないでしょうね?」
申請書を読んだクリスは、胡乱気な視線を目の前の人物に送った。赤みがかった茶髪をボブカットにした少女だ。学年はクリスの一つ下で二年生、魔道具研究部と手芸部を兼部し、名をルナ・アルテミエフという。
「夏生さんが言うには、危なくはないそうです」
「どうだか。彼、変に危ないもの作る癖があるし」
「変に危ないもの……?」
「大雑把に言えば、天候操作魔術とか爆弾とか飛び道具とか」
「爆弾に飛び道具……いえ、今回は実用的な、小型の魔道具だと聞いていますけど」
「本当にそうならいいけど」
冬雪をいまいち信頼できないでいるクリスが書類に目を通すのを見ながら、アルテミエフは思った。
(夏生先輩、今まで何をしたんでしょうか……)
訂正、冬雪は後輩にも信頼されていなかった。実際に彼がやったことといえば、学園の敷地内にだけ局所的過ぎる豪雨と落雷を起こしたり、かと思えばグラウンドで竜巻を起こしてヴェルニッケを巻き上げたり(これは偶然発生した事故である)、自作の銃をイベントに持ち込んで射撃部に完勝したり。
これらすべてを知るのは、冬雪と三年間クラスメイトであり、入学当初から魔道具研究部に所属しているシンディ一人くらいなものだが、彼女の知る冬雪の奇行は上記に留まらない。生徒会や風紀委員会もある程度はそれらの騒ぎを知っているので、クリスやヴェルニッケからの人格面での評価について、低空飛行する一助となっているのだ。
部長の評価は部の評価、アルテミエフとしては今少し、冬雪には奇行を自重してもらいたいのだが、とはいえ彼から魔術魔法と魔道具の開発を奪ってしまうと、それはそれで魔法史の不利益にもなりかねない。天才と変人は紙一重、仮にも通り名持ちの魔術師なのだ。頭の痛い話だが、ある程度は仕方ない。
仕方ない、で済ませるわけにいかないのが、生徒会長のクリスである。彼女は申請書類を読み終え、「出店可」の判子を押して承認者サインを記すと、それをアルテミエフに返しつつ釘を刺した。
「いい? くれぐれも、セレモニーでおかしな行動はさせないで。不必要に要人と接触させないで。もし指示を破ったことが確認されたら、魔道具研究部の存続権と部室を取り上げる」
釘を刺されたことをアルテミエフに聞いた冬雪は、つまらなそうに金属の破片を眺めて呟いた。
「はったりだ」
「はったり、ですか」
「ああ、クリスもヴェルニッケも、口ではあんなことを言っているが、ボクの自由を本当に奪うような対応はできない。気にしなくていいよ。それよりすまなかったね、わざわざ隣の生徒会室にお使いをさせて」
「それはいいんですけど」
隣で魔道具の参考書を読んでいる零火が、僅かに頬を膨らませて口を挟んだ。
「それくらいなら、私が行ったのに」
「まあまあ、それで言ったら、副部長のあーしが行く方が筋だったんだから」
「ふむ、これも没だな」
冬雪は部室の窓を開けると、手で弄んでいた金属片を外に向かって投げ捨てた。堂々とぽい捨てされた金属片は、校舎からいくらか離れ、飛翔速度が落ち始めると、鮮烈な光を放って爆発し、霧散する。
これを見たアルテミエフは静かに納得した。
「だから生徒会長は、夏生先輩を完全に信頼しないんですね。危ないから」
「こら」
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