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第三話-1 使用人

 堕天使イヴリーネ。かつては|《禁忌の魔王》のもとで働き、第一世界空間や第二世界空間の情報収集を行っていた大天使だった。


 天使の堕天は、|《禁忌》との契約を破ることで起きる。先だって冬雪に討伐された堕天使であるルシャルカは、|《禁忌》との契約で禁じられている生命創造を行ったことで契約に抵触した。イヴリーネの堕天は、入手した情報を|《禁忌》に一切関係のない人間に漏洩したことで契約に抵触した。


 イヴリーネが漏洩した情報の受け取り手は天使たちによってすぐに特定され、後任の大天使リークスによって即座に抹殺が実行されたという。無慈悲ではあるが、漏洩が許されない機密だったのだ。


 しかし肝心のイヴリーネは、未だに討伐されずに生き残っている。イヴリーネは情報戦に通じており、堕天した時にはもう、行方が分からなくなっていたのだ。


 冬雪が転生したのは、特別情報庁の力を利用してイヴリーネを抹殺するためだった。そのために、かつてルシャルカ討伐のために動いていたスパイチームである『幻影』に加入し、三等工作員に昇進したのだ。イヴリーネを討伐するのが、冬雪が冬雪としている理由だった。


 とはいえ、『呪風』は特別情報庁の工作員であって、|《禁忌》の私兵などではない。


「『呪風』、お前さんに新たな任務だ」


『幻影』の拠点、『幻想郷』。そこに執務室を構えるボス、アルベルト向き合い、冬雪は新たな命令を受けていた。


「シャロン財閥は知っているだろう」


「知らないわけじゃないですが、詳しくもありませんよ」


 挙げられた名詞は、あまり冬雪には馴染みがなかった。共和国で暮らして七ヶ月、ギルキリア市に拠点を用意してからはまだ二ヶ月程度下経過していないのだ。知らなくてはならない情報や一般常識等は一通り頭に入っているからシャロン財閥の名前も知ってはいるのだが、それ以外は外部の一般市民が得られる程度の情報しか持っていない。


「ならばこれから三日以内に、シャロン財閥のあらゆる情報を叩き込んでもらうぞ」


「嫌だなあ、今後使わなそうなのに……」


「言っている場合か、せめて任務が終わってから言え」


 アルベルトは、話が進まんと言って咳払いした。これは上司の前にいて、冬雪が自由すぎるのである。


「シャロン財閥の会長は誰だ」


「アデラール・シャロン、年齢は五〇台」


「シャロン財閥子会社の数は」


「七でしたっけ確か」


「シャロン財閥本部の住所は」


「フォーマンダ州ギルキリア市中北区六の六の八一」


「アデラール・シャロンの邸宅の住所は」


「フォーマンダ州ギルキリア市港北区一の七の二四」


「……よく詳しくないなどと言えたものだな」


「調べればすぐ分かることじゃないですか」


 淀みなくすらすらと答える冬雪に、アルベルトが呆れたように額を押さえる。実際調べればわかることには違いないが、ここまで調べ上げている者は、少なくとも一般市民にはそういない。


「それで、今の会話の流れからすると、今度の任務はシャロン財閥絡みですか」


「そうだ。早い話が、アデラール・シャロンには国内の財界情報を連邦に流している容疑がある」


「外患誘致予備罪……いや、国内経済情報漏洩罪?」


「どれが適用されるかは不透明だが、容疑が事実だった場合、共和国の経済に大きな問題を生じる恐れがある。シャロン邸に潜入して真偽を明らかにし、容疑が真であればその証拠を集め、どの罪名を適用すべきか報告せよ」


 思っていたより多い仕事量に、冬雪はややたじろいだ。しかも内容が情報収集だ、魔道具の製作でも敵との交戦でもない。しかも任務形式は潜入であり、比較的長期間に及ぶ。


「それ、ボク以外の参加者は?」


「どうしても手が足りなければ、『白兎』の手を借りろ。だが基本はお前さん一人だ。たまには戦わない任務もこなしてみろ」


「たまにはでやるような規模の任務じゃないんですよ、財閥会長の売国を暴けなんて。失敗すれば確実に実現不可能の任務(ヴァロミオ)じゃないですか」


『呪風』は特別情報庁の工作員だ。つまりは国家公務員である。


 国家公務員である以上、命令とは決して逆らえない、絶対の王命にも等しいものだった。

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