【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-9
鳳は龍神の乱心を抑えり。
それは北極大陸を守護する大精霊フェロンドが、南極地の支配者である大精霊ヴァロミオの暴走に駆け付け、熾烈な争いの末にヴァロミオを眠りにつかせ、世界の安寧を守った、という伝承を表す言葉である。鳳とは巨大な鳥の姿を持つフェロンドを表す呼び名で、龍神はヴァロミオの姿に基づいた呼び名だ。
生徒会室で事の顛末を報告され、生徒会長クリスティーネ・クルーザは戦慄した。クリスという愛称の彼女は、白金色の髪とベルリンブルーの双眸を持つ美少女だが、今重要なのはそこではない。
生徒会は、創立二〇〇周年記念セレモニーの準備のために忙殺されている。とくに腐心するのが会場の警備態勢で、これは風紀委員会を総動員したとしても、なお不安が残る部分だった。国王が参加するので近衛騎士団は動くだろうが、そればかりに甘えては、魔法学園の名が廃る。
そこでクリスは、学園で信用のおける実力者にも協力を打診していたのだが、この報告はいやはやなんとも。
「どう思う、セオドア?」
クリスは、生徒会室で警備体制を考案しているヴェルニッケに意見を求めた。
「彼のこと、あんたはどう評価しているの?」
「実力に文句の付け所はない。それは僕が身をもって保証できる。けれどあれだけの実力者でありながら、総合成績が中の上という結果が示している通り、少し真面目さが足りない。不安があるとしたらそこかな」
冬雪夏生が真面目にやっていれば、彼は座学も実技も余裕で主席の座に収まる。これは学園の、特に三年生の間では有名な話であり、ヴェルニッケがどうにも素直に冬雪を尊敬できない理由でもある。やればできるのだからやればいいのだが、なぜ彼はやらないのか。それは彼が不真面目だからだ。
「クリス、今からでも遅くはない、考え直さないか。代わりの人材なら、射撃部の精鋭でも充分じゃないか」
「今からでは遅いね。もう現状は共有しているから、今からではただ、警備体制を第三者に流出させたことになる。彼は裏切りはしない。このあとは、裏切らせなければいい」
「信用できるのかな」
「今の時点で、彼以上に頼れる相手はいない。味方に引き込んでおいた方がいいでしょうね。私たちがこの間の入学試験のときに痛感した通り、敵に回すと勝ち目はないから」
散々な評価をされた冬雪が、生徒会室の隣にある魔道具研究部の美質において、何の脈絡もなくくしゃみをしたという記録はない。
「まったく、あんなものわざわざ生徒会の人間使って持って来させるなよ」
くしゃみの有無はともかく、冬雪はぼやいてはいた。
「ヴェルニッケめ、そんなにボクが嫌いか」
「本当に、先輩ってヴェルニッケ委員長と仲悪いですよね。委員長が先輩に反感を持ってる理由は分かりましたけど、先輩は何で、委員長のこと嫌ってるんですか」
零火が淹れた紅茶を、冬雪は一口飲んで答えた。
「零火」
「はい」
「人間の心理としてね、好悪には返報性というものがあるんだよ」
要するに、嫌われているからこっちも嫌い、という、ただそれだけのことなのだ。
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