【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-8
王立ギルキリア魔法学園は、今年度で創立二〇〇周年を迎え、入学式の一月後には記念セレモニーが行われる。
セレモニーには国王が招かれる上に、校長や生徒会役員の他、各委員会や部活動の幹部が一名以上参加が義務付けられており、これは通常、委員長や部長が参加することになる。ただし会場警備に配置される風紀委員会は例外で、委員長のセオドア・ヴェルニッケは、壇上の警備のため、会場に常駐することになっていた。
当然、魔道具研究部にも、幹部の参加を求める通達が届いていた。入学式から二週間後のことである。部室で生徒会役員に渡されたその令状を、冬雪はぞんざいに机の上に投げ出した。
「断る」
役員は聞き間違いかと思ったようだ。
「会場には国王陛下もいらっしゃいます。各部活の幹部のセレモニー参加は生徒会規約第四章第五条にもありますし、部長さんが参加されるのが習わしで……」
「聞こえなかったか、断るといったんだ。ボクはセレモニーなんぞに参加しない。あんなものは参加するだけ時間の無駄だ」
「そ、そう言われましても、部活動として認可されている以上は参加していただかないと……」
冬雪のこの態度には、零火も窘めにかかった。
「夏生先輩、ここで意地になっても、規約にあるのではどうしようもありませんよ」
「零火、ボクは何も、魔道具研究部が参加しないと言っているわけじゃない。ボクが参加しないと言っているんだ。さっきそいつは何と言っていた?」
「各部活の幹部が参加するのは生徒会規約に、って……あっ」
「そう、義務があるのは幹部の一人だ。部長には限らない。現に風紀委員会は、委員長のヴェルニッケではなく、影の薄い副委員長が参加する。治安組織の対応に、ボクたちが倣って何が悪い?」
酷い詭弁だ、と零火は思ったが、指摘するのは諦めた。冬雪は妙な部分で大人げないことがある、と長い付き合いで理解している。こうなった以上、決定はてこでも動かない。
「夏生先輩が行かないとすると……」
「キャメロン」
「シンディって呼ばないと行かない」
「……シンディ、任せた」
「まあ、そうなりますよね」
「はいはい、あーしが行きますよ。これで問題はなくなったね」
半ば投げやりにシンディが答えたことで、生徒会の役員は折れざるを得なかった。セレモニーに部長が参加するのは単なる慣習でしかなく、生徒会規約に明文化されていない以上、冬雪の参加を強制することはできないのだ。副部長と会計も、部活動の幹部という扱いである。規約上は、何も問題がない。
「それで、生徒会の役員がわざわざ出張ってきた理由は、ボクの説得だけか? なら帰れ、決定は今伝えたとおりだ」
「あ、いえ、実はもう一つ」
役員は、抱えていた鞄から一通の黒い封筒を差し出した。口は丁寧に糊付けされており、上からサインをして封印するという厳重さ。一体何が入っているのか、と固唾を飲む零火の前で、冬雪はつまらなそうに封筒を照明にかざし、そのまま燃やして灰にしてしまった。
「──了解」
「え!?」
今の数秒で一体何が分かったというのか。封筒を開きもせずに。零火が驚愕する目の前で、冬雪は灰をまとめて窓の外に吹き散らすと、頬杖をついて不敵に笑った。
「クリスに伝えろ、鳳は龍神の乱心を抑えり、とな」
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