【if】全員魔法学園に放り込んだと仮定して。-3
「これより、王立ギルキリア魔法学園入学式を開式します」
午後になり、入学式が始まった集会場の隅の席で、冬雪は大きな欠伸をした。まだ開式の宣言が済んだばかりだというのに、もう飽きたのだ。
そもそも冬雪は、このような式典の類が好きではない。嫌いだから壊してやろう、とまでは思わないものの、堅苦しい場に参加を強制されると、露骨に嫌そうな顔をする。
「ところで夏生くん」
「なんだ」
「君は、気になってる新入生はいるのかい?」
隣のシンディが小声で話しかけてきたので、冬雪は少し考え込んだ。
既に案内などで顔を合わせた新入生はいるし、新三年生は学園のシステム上、成績優秀者は入学試験に立ち会うことがある。冬雪は成績優秀者とは言い難くも、実力者ではあるので、例外的に立ち会ったのだ。その際に生徒会長や風紀委員長とも模擬戦闘をしたのだが、まあそれはさておき。
その中で、期待できそうな入学志願者もちらほらと見かけた。また、立ち会ってはいないし案内もしていないが、入学者名簿の中に、見知った名前があることにも冬雪は気付いている。
つまり結論は、
「ああ、いるよ。かなり優秀そうなのがな」
冬雪が自慢げに言うと、シンディは目を丸くした。
「おうおう、随分買ってるじゃねえか。おめーのお気に入りか、ええ?」
「そんなところだ」
「まじかよどんな奴なんだ」
「実力で言えばボクと互角か、それ以上は見込める。それにボクよりはるかに真面目だから、成績優秀者の常連になれるんじゃないかな」
「うわあ、あーしとは真反対だあ」
シンディは魔術科の不真面目な非実力者である。救えない。
「まあ、一つ問題があるんだけどな」
「問題っていうと?」
「あいつは、魔法が使えない」
「……は?」
頓狂な声を出したため、シンディの下に教師が飛んできた。「あ、やばい」と慌てて姿勢を正すのも間に合わず、教師の手刀が脳天を打つ。
呻くシンディが頭を抱えて蹲る中、入学式は順調に進行していく。現在は校長の挨拶が終わったところであった。
「入学者の言葉。総代、平井零火」
「はっ」
司会の呼びかけに応じ、一人の少女が入学者の席で起立した。新品の制服に身を包んだ彼女は、新雪を思わせる銀白色の髪と、氷を連想させる水色の双眸を持つ、色白で小柄な人物だ。黒を基調とした制服とのコントラストの目立つ彼女が入学者の総代、平井零火。そして、冬雪が先に挙げた人物でもある。
立派になったものだ、と冬雪は頬を緩めた。零火とは、一年半前から面識がある。当初の彼女はそれは酷いものだったが、今はこうして、総代として大勢の前で壇上に上がるまでになったのだ。
「皆さん、初めまして。総代を努めさせていただきます、平井零火です。この度はこうして王立ギルキリア魔法学園に入学し、壇上で挨拶をさせていただくことに、深い喜びを──」
表情に緊張は見えるが、落ち着いて話せている。何より、堂々とした態度で壇上に立つ姿が様になっている。成長する様子を傍で見ていた分より一層、それが冬雪には誇らしい。自慢の後輩だ。つい表情を緩めて零火の話を聴いていると、話の切れ目に会場全体を見渡した零火と、一瞬だが確実に目が合った。
緊張が解けてわずかに微笑んだ零火が続きを話し始め、冬雪は穏やかな心地で、彼女の声に耳を傾ける。未だに呻くシンディがうるさいので、こっそりと防音幕を張って遮断した。
「──以上で、私の挨拶とささていただきます」
話し終えた一礼して壇上を降りる零火と、再び一瞬だけ目が合った。
「よくやった」
冬雪が口元だけでそう伝えると、零火は微笑で応える。シンディはまだ蹲ったままで、それを見ていない。もったいないことだ。
よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。