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第七話-7

 対人狙撃銃。おおよそ近距離での戦闘に使う代物ではないが、『黒羽』の得物だ。ヴェルナーも共に仕事をした際に、一度見たことがある。銃弾を外し、『黒羽』がボルトを引いて次弾を薬室に送り込むのを、ヴェルナーは黙って待ちはしない。


「アル・リーシア」


 精霊術魔法の詠唱。細い鉄針が撃ち出され、『黒羽』の腕を狙う。神経を貫けば生かしたまま対象を拘禁できるので重宝する。とはいえそれは命中すればの話であって、防御されれば意味はない。


『黒羽』は狙撃銃の銃床を持ち上げる最低限の動きで、飛来する針を弾く。針程度の大きさと質量では、容易に防御される。今少し強い攻撃が必要だ。


「アル・フリエンジ」


 鉄針の一〇〇倍はあろうかという質量の鉄杭が、『黒羽』を狙う。杭は『黒羽』の左肩に命中し、小さい苦悶の声と共に鮮血を零す。よろめき、しかし狙撃銃は手放さず、数歩後退してついに膝を突いた。そこにアーニャが出て、拳銃を構えて牽制。『黒羽』も震える右手で拳銃を抜くが、狙えるはずがない。


「終わりだな、『黒羽』。なぜお前さんがここにいるのか、ヘインツ議員のグラスに何を混ぜたのか、詳しく聴かせてもらおうか」


 対人拘束用の結界を精霊が用意し、ヴェルナーが『黒羽』に詰める。冬雪は車の中からエネルギー探知でその様子を観察していたが、不意にそれまでいなかったはずの人間が探知範囲に入った。ぞわり、と悪寒が駆け上る。


「『冷鳴』、避けろ!」


 冬雪は通信に向かって、珍しく大声を出した。コードネームとはいえ、一回り以上年上の相手を呼び捨てである。しかも命令形。しかし、最大限言葉を省略しても不充分だった。


(間に合わない……)


 トパロウルの指摘した通り、『黒羽』には共犯者がいた。それも、まだ邸宅に残っていた。冬雪が駐車場で探知を始める前から潜伏し、探知範囲外に潜み続けていたのだ。


 突如現れた人間が、大型の鉄扇でヴェルナーの身体を弾き飛ばすのを、拳銃を構えたままのアーニャは横目に映した。ヴェルナーが意識を失ったため、精霊の用意した結界が消失する。形勢は、二対一から一対二へ、一瞬のうちに逆転した。


 アーニャが見たのは、異様な装束の女だった。二本の角が生えた仮面を被り、黒いローブの上に、蜘蛛の糸のように全身に張り巡らした黒い平紐。関節部には銀色の円盤が付いている。


「動くな、魔道具屋」


 無意識に腰を浮かしかけた冬雪を、トパロウルは制止する。


「しかし、夫人一人では死にますよ」


「お前さんの移動は許可できん。移動はな」


「……ここで援護しろということですか」


 できなくはないが、無茶なことを言う。一方に逃げられた場合に追跡できる人間が必要だ、というトパロウルの言い分も分かるが、遠距離で戦闘を援護するのも容易ではないのだ。


「はあ、『幻影』の全員に呪容体を付けておいて良かったよ、全く」


 冬雪は気絶したヴェルナー(命に別状はない、現在のところ)との通信を切り、アーニャとの通信は維持した。彼女が仮面の女とナイフで打ち合うのを探知しながら、冬雪は通信の座標を転移魔術に複製し、手元には空気に付与できる呪術魔法を構築する。


「もうしばらくしたら、敵を制圧できます。それまで何とかして耐えていてください」


「長くは持たないわよ」


 ナイフと鉄扇が打ち合い、細かい鉄くずと火花が舞う。距離さえ取れれば拳銃を使えるのだが、これだけの至近距離では邪魔にしかならない。そして『黒羽』も気掛かりだ。ヴェルナーが制圧した彼女だが、拘束までは行えていない。逃げられる可能性がある。だがそちらに動く余裕はない。


 そんな雑念が渦巻いていたからだろうか、鉄扇がアーニャの鼻先を掠め、回避を試みたアーニャが足を縺れさせて転倒する。振り下ろされる鉄扇は辛うじてナイフで受け流したが、地面に這いつくばった姿勢は変わらない。二撃目は防御できない。体力の限界が近付いている。


 そのまま頭部を潰されるかとアーニャが覚悟した瞬間、鉄扇の女が突如として距離を取った。

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