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【三章終了】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
第二章『霊眼』

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第七話-6

 グラスが地面に叩きつけられ、悲鳴が上がる。ヴェルナーとアーニャはその瞬間、しまった、と後悔した。落下したグラスは、『黒羽』が何かを混入させたものだ。グラスは脆い。立って手に持つ人間が落とした場合、よほど柔らかい地面でなければ、衝撃によって割れてしまう。


「誰か、医者を呼べ! ヘインツ議員が倒れたぞ!」


 盗聴していた冬雪にも、それはよく聞こえた。


「医者を呼べ、と聞こえたが?」


「ええ、穏やかじゃありませんね……」


 ヴェルナーとアーニャが悲鳴の上がった地点に向かうと、ヘインツはヴァネバーに抱えられ、意識を失っていた。


「『黒羽』はどこだ?」


「逃げられたわね」


 ヴェルナーが会場の隅に移動し、音声だけの通信を冬雪に繋いだ。冬雪は半ば暇つぶしにトパロウルと通信していたが、複数同時に通信を行えないという機能上の制限はない。


「『呪風』、会場から逃げた人間を探すことはできないか?」


「『黒羽』には呪容体(めじるし)がないから、少し時間はかかりそうですが、多分不可能ではありません。でも、屋外に出た人間は多分いませんね」


「……オレは『黒羽』を探せと言った覚えはないんだが」


「盗聴してましたからね。そんなことより、邸宅の中を移動する人間が一名……『黒羽』かどうかは分からないけど、どこ行くんだろう、これ」


 トパロウルやヴェルナーにしてみれば、車にいながら邸宅の中を探れている冬雪の能力は異次元に思えるのだが、今はそれを指摘している場合ではない。


「あ、まずい。このままだとボクの探知範囲から外れ……外れたな。どうしよう、『冷鳴』さん追えます? こちらで大まかな方向はナビゲートしますんで」


「了解した、まずはどこへ向かえばいい?」


「会場を出て左手、通路を正面玄関と逆に進んで北上してください。途中階段がありますのでそこから二階へ、二階の踊り場からは東方面です。そこで探知範囲が終わりですので、以降は『冷鳴』さんに探してもらわないと」


「会場出たらまずは左だな。アーニャ」


 ヘインツの手当てを医者に引き継いだアーニャを連れ、ヴェルナーがパーティーの会場を出る。今の騒ぎで警備が混乱しており、『黒羽』もそれに乗じて移動したようだ。


「ちなみに夫人、ベイルハースト議員の状態はどうです?」


 冬雪が通信をアーニャにも繋ぎ、状況を訊くと、彼女は顔を顰めて答えた。


「かなり怪しいわね。飲んだのは恐らく即効性の劇薬、最悪の場合は、日付を超せないかもしれない」


「それをやったのが事実『黒羽』だとすると、彼女は一体、何の目的で?」


「それを考えるのは後だ、まずは奴の身柄を押さえておかなくてはならん。『呪風』、オレたちは二階の廊下だ。合流できないか?」


「共犯者が逃亡する恐れがある。魔道具屋を合流させるのは許可できん」


「だそうです。ボスに言われては仕方ありませんね。ただ、『黒羽』らしき反応は再度ボクの探知にかかりましたから、南側に移動したみたいですよ。高度からして三階か、あるいは屋上です」


 精霊を遣いに出して探索範囲を広げることも考えたが、やめた。『黒羽』の能力的に、自分を探る精霊がいると知られたら、精霊が抹消される恐れがあるのだ。そんな危険な賭けに、契約精霊(かぞく)を送り出すわけにはいかない。


「屋上の出口に着いた。人間の気配は……あるな」


「だそうですよ、ボス。どうします?」


「相手が同胞であれ、一度制圧しろ。『冷鳴』と『烈苛』に、交戦を許可する」


「「了解」」


 先陣を切ってヴェルナーが扉を開け飛び出すと、直径二・七八ペラレイア(五・五六ミリメートル)の銃弾が、乾いた破裂音と共に、彼の首筋を掠めた。

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