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第二話-5

 天使というものは本来、一般的な人類と同じ大きさの存在ではない。元々の大きさは身長七五ペラレイア(一五センチメートル)程度と非常に小さく、基本的には人類社会に溶け込む必要がある際にのみ、相応の身体に変化するのだ。


 天使本来の身体は、先に述べた通り非常に小さい。大人の人類の掌であればそこに載せられるほどだ。その上実効体重は零クルー(グラム)、存在しないに等しい。冬雪ですら、気配を感じ取るのは困難だ。つまり、隠密性が高いのである。


 そんな小さな身体でギルキリア市の路地を調べているクリスが発見された。明らかに彼女が述べた目的である冬雪の監視には沿わない行動だ。クリスが去るのを待ち、精霊がクリスの観察していた地面に接近する。僅かに凹みがあるようだ。精霊の目では限界があると感じ、幽灘が眠った後で、冬雪は現場に赴いた。


 一見、何の変哲もない路地の地面だ。だが冬雪には、ただ物理的な衝撃で凹んだだけの地面とは見えていなかった。魔法が使用された可能性がある。ここ一週間以内のことだろう。かなり薄れてほぼ消えかかっているため、並の魔法能力者であればまず気付かないだろうが、彼にはその痕跡を読み取ることができる。


 冬雪は、ただ己の五感だけで周囲を探知しているわけではない。彼は自身の周囲にあるあらゆるエネルギーの配置や密度を感じ取ることができる。物質は必ず化学エネルギーを持つ。電流が生じていれば電気エネルギーが存在するし、熱運動する物質は熱エネルギーを、光源は光エネルギーを、発音体は音エネルギーを発する。また、魔法陣や魔道具などがあればそこには必ずマナか魔力の魔法力が存在するし、それらはすべて、別のエネルギーとして区別できる。


 彼はこれらのエネルギーを、全て感じ取ることができる。これにより、冬雪は精霊の目以上に正確に周囲の状態を把握することができるようになったし、今度こそ完全に死角をなくすことができた。この技術は、魔法力によって物質を変化させる魔術魔法の応用だ。欺ける者がいるとすれば、冬雪と同等以上の能力を持つ魔法能力者だけであろう。


 その彼が発見したのは、地面にしみ込んだ微弱な魔力の残滓だった。残っているのが奇跡だろう。普通魔力残渣は大気中に放出され、長くても数秒で霧散し観測できなくなる。今回発見できたのは、偶然に偶然が重なった、ほとんど奇跡にも近い条件が揃っていたためだった。


 一つは、使われた魔術が魔力の漏れを生じるほど完成度の低い魔術だったこと。一つは、その着弾地点にあった砂が石英質であり、さらにその中に砂鉄の成分を僅かながら含み魔法力を貯蔵する能力を持つ物質があったこと。


 そして先刻の様子から察するに、恐らくクリスもこの痕跡に気付いていたはずだ。周囲の物質が持つエネルギー全てを識別する技術を使わずとも、残留する魔力を発見すること自体は、大天使なら可能であってもおかしくない。


 冬雪が周囲のエネルギーをさらに探っていくと、今調べたような地面の凹みは半径三レイア以内の範囲に二つ存在すること、それ以外にも自然物とは思えない物理痕跡が複数存在することが確認できた。冬雪がその痕跡をさらに詳しく調べていくと、三つの凹みには共通点が見つかった。


(凹みの形状が、人型に似ているな)


 銀魔力で型を取ってみると、凹みの深さには場所によってむら(・・)があり、形状は分かりづらいが、いくつかのくびれがある。これを仮に人型だと仮定すると、推定される身長は六〇から九〇ペラレイア……おおよそ天使の大きさと一致する。共和国北部メルトナ州などに生息する妖精(エルフ)類も大きさが近いが、妖精類の個体がフォーマンダ州に現れる可能性は高くない。ほぼ排除していい可能性だ。


 ──大天使クリーシスは、この場で魔術魔法による攻撃を受けた天使たちの消息を追っている。


 これが、冬雪が現場で導き出せた推測だ。

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