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第七話-5

 ルイ・アイスナーは、神暦五九九三年度で一三歳である。当然その身体は年齢相応に発達途上にあり、夜は寝るべき身だ。そんな少年が就寝のために冬雪の通信を切ったため、冬雪はまた、フレイルの運転席で一人退屈な待ち時間を提供された。


「幽灘もそろそろ寝た頃かねえ」


 何が悲しくて年の瀬に、娘の顔も見られず、退屈な夜が更けるのを堪能しなければならないのか。いよいよ暇が極まり愚痴を零しそうになった冬雪は、車内暖房の切れた寒い運転席で、白い溜息をついた。


「しかし本当に暇だな。……盗聴でもするか」


 ルイ、ウェンディ、零火、クリス、おおよそ冬雪と交流がありながら常識的な物差しを持ち合わせ、発想の異常性を指摘できる人物が、この場には欠けていた。もっともこの場に誰かいれば、彼が盗聴を始めることなどなかっただろう。無駄話で時間とエネルギーを浪費していたであろうことは疑いない。


 冬雪は通信魔術と似た魔術を起動し、冬雪側からの送信音声を極限まで小さくすると、ヴェルナーに付けた呪容体を頼りに、パーティー会場の音声を車内で盗聴し始めた。無秩序な喧騒の中から会話を拾い集めるのは骨が折れるが、盗聴を行う場所を変更すれば、多少は楽になる。


「……『黒羽』、あいつ今何を入れた?」


 なにやら風向きがおかしいな、と冬雪は思った。盗聴は現在、ヴェルナーの首元で行われているが、彼の発言がどうも不穏である。


「『黒羽』ってことは、スペシャリストの誰かだよな? 今日のパーティー会場、『幻影(うち)』のアイスナー夫妻以外誰かいたっけ?」


 冬雪は盗聴を続けながら、『幻想郷』に通信を繋ぐ。『黒羽』がどこかに何かおかしなものを入れたらしいが、詳しい状況は分からない。そもそもなぜスペシャリストがいるのか、そこから調べるべきだ。


「ボス、『黒羽』って工作員、知ってます?」


「対連邦工作員特化の戦闘要員だ、お前さんのように、多彩な魔法能力を持つと聞く。階級は二等工作員、一八歳の時点で既に、な」


「それは、さぞ高い実力があるんでしょうね。その人がアイスナー夫妻のいる会場で何かしてるらしいんですが、ボスは何か聞いてます?」


「……はあ? いや、知らんぞそんな話は。一体何の冗談だ」


 やはりトパロウルも知らないらしい。『幻影』の任務は、特別情報庁本部から寄越されるものだ。当然その前の段階で、配置する工作員同士が、意図せず現場で鉢合わせるようなことがないよう、本部で常時調整が行われているはずだ。


いいかえれば、この状況は、本部での調整が上手く機能していない証拠の他ならないのである。


 急な人手不足といい、随分と不穏な影が迫っているな、と冬雪は警戒せずにいられない。


 無論今回の任務が、たまたま本部の想定を外れた結果という可能性はある。しかしスパイチーム単位で管理される三等工作員と違い、単独で行動する二等工作員は、本部がその動きを直接制御しているはずだ。今回に限って言えば、トパロウルが知らずに現場が重なることは、どう考えてもおかしい。


「しかもアイスナー夫妻、『黒羽』の動きに疑問持ってるよな。何してるんだ?」


「場合によっては、俺の責任で通訳者と事務員を撤退させる。だがそれまでは、お前さんの方でも、可能な限り『黒羽』を見張っておけ」


「無茶なこと言いますね……あ、なんか動いた」


 会場で叫び声が上がったのだ。内容を聞いてみると、どうも撤退させるのは後になるだろうな、という感想を冬雪に持たせた。

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