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第七話-4

 パーティーの主催者に挨拶を済ませたヴェルナーとアーニャは、会場で他の参加者と談笑しつつ、時折料理を立食し、それでいてヘインツから目を離さないという器用な仕事を続けていた。そもそもなぜ今回、いきなり政治資金パーティーでの政治家の護衛などという任務が発生したのかが謎だが、異を唱えるより先に、仕事は済ませるべきだ。


 主催者たるヘインツ・ベイルハーストのもとには、ひっきりなしに参加者が挨拶に訪れる。パーティーに招待されていながら挨拶をしないのは、共和国東部の礼儀作法に反するのだ。それと知らないような無教養の者は、このパーティーに招待されていない。


 周囲を観察し、会場に危険物が仕掛けられていたり、料理や飲み物に薬品を混ぜるものがいないか、まんべんなく見渡す。


「今この会場が丸ごと吹き飛ぶほどの爆発が起きれば、共和国のみならず、世界の未来と歴史が変わる」


 それは夫妻の共通認識だった。わざわざ口頭で確認することはない。これまでに夫婦として、工作員として、総じてパートナーとして積み上げてきた実績と信頼、相互理解。互いの考えを視線一つで共有するほど強固な結びつき。特別情報庁がこの二人を組ませて任務に送り込む理由は、そこにあった。


 ──二人一組で任務をこなすのに、彼ら以上の逸材はいない。これは特別情報庁の上層部や、『幻影』のボスであるトパロウルが評価している。


 ふと、ヴェルナーが一人の給仕に目を付けた。明確に不審な点が見つかったわけではない。ただなんとなく、その立ち振る舞いが気になったのだ。


 違和感は視線の小さな動きだけでアーニャにも伝達され、彼女は談笑していた帝国の外交官に会釈をして夫の傍に戻る。言葉なくアーニャがヴェルナーと同じ人物に視線を合わせると、彼女が違和感の正体に気付いた。


「あの給仕、服の中に拳銃を隠し持っているわ。それを自然に庇っているけど、それが違和感に繋がっているのね」


 なるほど、とヴェルナーは納得した。彼は基本的に、精霊術魔法で中・遠距離攻撃を(まかな)っている。故に拳銃は携帯せず、隠し持っていることに気付くのが遅れたのだ。


 拳銃を隠し、庇ってる。その視点で見ると、給仕は確かに、拳銃を所持していた。給仕には明らかに不要なものだ。今回のパーティーに潜入している特別情報庁の工作員(スペシャリスト)は、ヴェルナーとアーニャの二名のみ。つまりあれは、敵の可能性がある。


「しかし待て、オレたちと同じスペシャリストでないとしても、公安や軍の人間である可能性はないか?」


 司法省公安外局は、国内で組織的な犯罪を取り締まる専門機関。情報革命以前の防諜機関である司法省情報公安委員会の後継組織でもあり、その仕事柄、特別情報庁の人間と現場で鉢合わせることはよくある話だ。


 陸海軍情報部はなおさら、特別情報庁と活動領分が一致する。しかも互いに間柄は険悪なため、情報の共有が遅いという厄介な事情もあるのだ。過去にも何度か、特別情報庁の工作員が外国に潜入した際、海軍情報部の下士官や士官を傷害したという事故も起きている。ありえない話ではない。


 しかし、そんなヴェルナーの懸念を、アーニャは否定した。


「いいえ、公安でも軍でもないわ。彼女の所属は、むしろワタシたちと同じ」


「特別情報庁の工作員だというのか? ……おいまさか、変装しているがあれは」


「ええ、二等工作員の『黒羽(くろば)』、連邦の刺客排除に特化した戦闘員のはずよ。でも情報の共有もなく、どうしてこんなところに」


 コードネーム『黒羽』は、現在の前線統括部部長である『撃鉄』直々の紹介で、ヴェルナーやアーニャともともに仕事をしたことのある工作員だ。当時『黒羽』は一八歳だったが、既に二等工作員として活動していた精鋭である。


 それがなぜ、存在を伏せたままこの会場に潜入しているのか。二人が(いぶか)っている視線の先で、『黒羽』が動いた。

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