第六話-2
冬雪が愛車『フレイル』を走らせること約三〇分、到着したのは広大な遊園地だ。第二世界空間にもこういったアミューズメント施設は点在し、今日のような休日は多くの客で混雑している。駐車場に着いてからものろのろと走行しながら空きを探していたため、結局入場ゲートに辿り着けたのはさらに一〇分後だった。
MT方式だとこういうときに少々しんどいな、とぼやきながら、冬雪は車の鍵を抜いた。現状の技術レベル的に、AT方式の自動車は、大半が先進国家連邦産のものになる。共和国ではMT方式が主流だ、主に燃費の都合により。
連邦ではAT方式が主流になっているので、冬雪も両方の訓練を受けているが、低速走行以外はMTの方が楽しい、という感想だった。その他で感想を求められたら、ATは左足が暇、とでも答えたかもしれない。自動車の運転方法は、概ね第一世界空間の自動車と同じである。
「夏生さん、車の運転上手なんですね。うちの父より快適でしたよ」
「そうか? まあかなり全力で仕込まれたからなあ……」
四等工作員だった頃の地獄の特訓は、思い出したくもない。受動者の運転は特に綿密に訓練された。市民として溶け込むための日常的な安全運転から、取り逃がした標的を追うための技術まで、ありとあらゆる運転を叩きこまれたものだ。走行方式の異なる、帝国の自動車も。
混雑した入場ゲートで迷子にならないように三人一続きに手を繋ぎ、人の列をすり抜けていく。現在時刻は午前八時三〇分、開園時刻は本来は九時だ。まだ三〇分時間がある。だが冬雪は、予め特殊な入場券を三人分入手していた。
「ご利用ありがとうございます、時間前入場券ですね。確認できましたのでどうぞ」
受付を素通り。時間前入場券は、この遊園地の開園時刻の三〇分前から入場が可能になる。通常開園後も、アトラクション搭乗時にはやや待ち時間短縮などの優遇が受けられ、目一杯に遊び尽くすにはうってつけの入場券だ。その分やや高価だが。
「さてそれじゃあ二人とも、まずはどこから回りたい?」
受付の女性に渡された案内図と睨めっこする姉妹をベンチに連れて行く。真空放電管の映像が光る横で、零火と幽灘は唸っていたが、やがて二人同時に結論を出した。
「「この図を見ても、よく分からない」」
あまりに息の合ったその答えに冬雪はつい笑ってしまったのだが、ひとまず上から見てみよう、ということで、三人は運転を始めた観覧車に乗ることにした。
「ここから家って見えるかな?」
「見えないこともないんじゃないかな、でも遠いからなあ……」
「高速道路に乗った上で、車で三〇分ですからね、冬雪家からここまで」
「ああ、まあ方角的にはあっちだろうけど、視界に入っていても見分けるのは難しいかな」
一応遠見の魔術で見てみるが、短時間で魔道具屋を発見することはできなかった。遊園地の青空駐車場から冬雪家のフレイルを発見するのも困難なのだ、さすがに自宅を探すのは無茶だろう。
「ところで二人とも、ずっと景色見てるようだけど、下のアトラクションを見なくて大丈夫か? そろそろ頂上過ぎるよ」
「「もうちょっと!」」
「まあ、ボクは構わないんだけどさ」
冬雪が途中から予想していた通り、零火も幽灘も遊園地のアトラクションを最後までよく見ておらず、結局次に乗るものを選ぶ役には全く立っていなかった。
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