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【三章終了】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
第二章『霊眼』

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第五話-6

 ──冬雪が躊躇した、危険でしかも無茶苦茶な技術について。


 かつて彼の傍付きだった大天使のラザムは、同一のDNAを辿ることで失踪した人物を追う魔術を持っていた。これは一定範囲内にサンプルとなった特定のDNAがあれば、その場所を知ることができる、というものだ。実際に使用する様を、彼も見たことがある。


 また彼女は、悪魔の排除に特化した特殊な攻撃魔術を考案しており、冬雪はその魔術を一部改良したこともある。その結果生まれ、精霊にも共有されたのが、悪魔殺し(ドレーア)なのだが、この二つの技術を組み合わせることで、一応は特定の生物を狙い撃ちにして殺す魔術が、原理の上では作れなくもないのである。


 悪魔殺しに組み込まれている、標的を判別する構造。ここにDNAを特定する要素を組み込むことで、特定の生物種を狙い撃つ魔術にするのだ。何が危険かと言えば、これは改変の仕方によっては人類にも有効になる魔術であり、何が無茶苦茶かと言えば、対象となるDNAをいかに効率良く設定するか、という点が考案されていない。


 技術だけで言えば、本来これは、国立最高峰の大学が一〇年単位の時間をかけて開発するようなものだ。一人で数日以内に完成させるなど無理難題もいいところである。


 しかしながら、「本来」に当てはまらないのが冬雪である。彼は既に、この技術をラザムと共に作り上げており、既に魔術魔法を屋敷で試験的に使用してすらいた。


 その使い道というのが、室内に侵入してくる吸血性の害虫の駆逐という、宝の持ち腐れも甚だしいものだった。トパロウルにだけそれを伝えたところ、


「せめて害獣に使わないか?」


 と呆れた声で言われたものだ。日本でも蚊に刺されることの多かった冬雪は、窓を開け放っていても害虫が屋敷に入ってこないため、かなり快適に感じているのだが。


 ともかくこの魔術を使えば、イヤドリオオミミズを早期にアルレーヌから絶滅させることができるかもしれない、という期待があった。期待はあったのだ。


 ここで、冬雪の人生哲学を述べておこう。彼はこう考えている。期待とは裏切られるものである──。


 例に漏れず、今回も期待は、どうやら裏切られつつあるようだった。難航する原因はいくつかあった。一つには、今回開発しているのは従来通りの魔術ではなく、広範囲にばら撒くための呪術である、というものがあった。


 呪術魔法は基本的に、どれも構造が複雑だ。ただ物質に吸着すればいいというものではなく、そこに機能するための魔法を組み込んだり、自発的に増殖する機能を詰め込んだり、一定時間を経過すると自然に分解するタイマーのようなものを組み込んだりすると、ひとつ開発するだけでも膨大な時間を要する。


 魔術魔法として開発されたものを組み込む事例は、特に前例が少なく、開発難易度は格段に跳ね上がる。それでも一度完成して実用化してさえいれば何とかなるのだが、完成すらしていない魔法は簡単に作れるわけがない。


 よって、基礎(ベース)となる魔術の開発は、冬雪はギルキリアに潜伏する大天使クリーシス──クリスティーネ・クルーザ、通称クリスに手伝わせていた。彼女の任務は、言うまでもなくイヴリーネの抹殺である。本来手伝う義理はないのだが、


「こいつを放置すると、イヴリーネがなにかするまでもなく第二世界空間の人類が滅ぶ可能性がある。手伝ってくれないか」


 と言って平身低頭して頼み込み、何とか協力を取り付けることに成功した。ひとつには、普段なら大抵のことを一人で片付けてしまう冬雪が、珍しく頼み込んできたから、という理由もあったかもしれない。


 それでも開発は難航した。


「本当に気持ち悪い見た目だね、イヤドリオオミミズ」


 屋敷の地下室でイヤドリオオミミズを見たクリスの第一声である。諜報機関が絡んでいる生物兵器のため、本格的に存在を認めるには時間がかかるのだ。


 無差別に生き物を殺しすぎて、連邦も後悔しているんじゃないかな、というクリスの考えは、願望がやや混じっているだろう。冬雪の方は、そんな期待は一切していなかった。


「そんな良心があったら、『鵺』に続いてこんなのを放たなかったと思うね」


 イヤドリオオミミズのDNAを完全な状態で取り出すだけで、一週間が経過した。これでも早い方である。不審に思われないよう、冬雪もクリスも、ずっと研究に注力している訳にもいかず、普段通りのギルキリアでの生活を演じなければならない。そもそも冬雪は、日本にいた頃から、DNAの抽出などしたことがなかったのだ。


 その間、『幻想郷』からは何度も連絡があった。


「進捗はどうなんだ?」


「DNAを指定する部分で開発が難航していますねーぇ。呪術化してばら撒くには、まだ時間がかかるでしょう」


 似たような会話を、二日おきに繰り返している。


 そして、ミイラ取りがミイラになりかけていることに、誰も気付いていなかった。

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