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第五話-4

 まだそうと決まったわけではない、と冬雪は自分に言い聞かせたが、事態が好き嫌いで変化するのなら、一体どれだけストレスフリーに生きられるだろう。


 翌日、いつものように幽灘がスチュワート家の兄妹と公園に遊びに行くというので、冬雪もそれについて行くことにした。行った結果、冬雪の懸念はどうやら現実味を帯びているようで、アネッタの顔色はあまり良くなかった。


 一方の幽灘は現在のところ無事だ。今朝も冬雪以上に朝食を食べた。むしろ食べすぎではないか、と冬雪がやや心配したほどである。一〇代前半の子供の食欲と考えれば年相応なのだろうか、などと考えもするが、とにかく食欲不振や貧血の兆候がないなら安心だろう。


「アネッタ、朝ご飯は食べた?」


「食べたよ」


「嘘だ、いつもの半分しか食べてなかっただろ」


 横からアントニーが口を出す。やはり食欲が落ちているようだ。肌を見ても血色が良くない。ギルキリア市の住人は、地理的な要因により、あまり色白というわけではない。アネッタの現在の肌色はいつもとは違った。


「立ったり歩いたりしたとき、身体がふらっとすることは?」


「ない」


「家出るとき、階段で転びそうになってたくせに」


「お腹の中に変な感じがあるとか」


「ない」


「昨日腹の横押さえて変な顔してなかった?」


「……アントニーに質問した方が早いかな」


 彼の口出しが全て事実であれば、アネッタがアルレーヌで寄生虫に感染した可能性は充分にある。しかし、本人がそれを認めたがらない。遊べなくなるのは間違いないので理解できない子ども心ではないが、大人としても、放っておくわけにはいかないのだ。


「アントニー、家にお父さんかお母さんはいる? 呼べるなら呼んできてくれないかな」


「え、そんなやばいの?」


「一応、病院に行った方がいいかもしれない」


「わ、分かった、呼んでくる」


「ゆなも行く!」


「え? いや君は行っても……まあいいか、背景にボクがいることがあの人たちに伝われば、多少は説得力にもなるだろう」


 自分抜きで話が進んでいることにアネッタは拗ねた様子だったが、これは仕方ない。件の寄生虫であれば、最悪の場合、命を落とす。さすがに人間ならその前に異常を察知して保護者が病院に連れて行くかもしれないが、症状が悪化するまで待つ必要もない。発見は早期に越したことはなく、杞憂であればそれでいいのだ。


 情報工作員が絡んでおり、なおかつ病院にかかった方がいい事象。スチュワート夫妻が半ば冬雪の正体に勘付いていることを、今回は一人の市民のために、逆手にとって利用する。


 それから三分で、血相を変えたシルヴィが駆け付けた。何がどう伝わったのか分からないが、まだそこまで慌てる段階ではありませんよ、と冬雪は窘める。拳銃の隠し場所が見抜かれたときよりも動揺している様子なので、むしろ彼の方が驚いてしまったくらいだ。


 全速力で走ってきたのだろう、息を切らして会話もままならない状態だったシルヴィと、低栄養状態と思われるアネッタをベンチに座らせ、これならアネッタを連れてスチュワート家に向かった方が良かったかな、と冬雪は反省する。放置したら死ぬということは、すぐに死ぬということではないのだ。伝え方を間違えたかもしれない。


「とりあえず落ち着きました?」


「はい、はい、失礼しました」


 まだ荒い息をしているが、話はできるまで回復したようだ。


「死にません。適切に対処すれば死ぬことはないはずですので、ギルキリア市国立病院の外来に行ってください。知り合いの医師がいますから、電話で先に話を通しておきます。受付でボクの名前を出せば、診てもらえるようにしておきます。なので用意ができ次第向かってください」


 病院に知己の医師がいるのは事実だ。『幻影』や工作員の協力者ではないが、特別情報庁の工作員が秘かに治療を受けることがある。冬雪が話を通すなら、この医師だった。

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