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第五話-3

「アルレーヌ大森林に、奇妙な寄生虫が広まっている、ですか」


 解剖したアルレーヌオオヤマネコの死骸と臓器をまとめ、屋敷の簡易焼却炉で処理していると、日本から渡ってきた平井零火が屋敷に現れた。あまり稼働させない焼却炉が働いている姿を見て疑問に思ったようだ。


 確かに、屋敷で出るごみの量はさほど多くはなく、普段は魔道具屋のごみとまとめ、ギルキリアで処分している。そのため焼却炉も小型かつ簡易的なもので、あまり使用されることはない。今回こうしているのは、感染の恐れがあるために、他のごみと分けて処理する必要があるためだ。


「ああ、どうも動物の変死体がそこらじゅうでごろごろ転がっていてな、おかげで虫が大量に湧いている。屋敷には入ってこないような仕掛けがあるから良いんだが、あれはどう考えても異常だ。そういうわけで、比較的新しい死骸を解剖したら、変な寄生虫が出てきた。見る?」


「……保管してるんですか?」


「一応な、後で生きたサンプルが必要になるかもしれん。特別情報庁にも報告しなければならんだろうしな。死骸から取り出したときはぐったりしていたけど、ぶどう糖(グルコース)とアミノ酸の水溶液に入れておいたら元気になった」


「そこは冷凍じゃないんだ……」


 現在は、ガラス製の密閉水槽の中に、大量のぶどう糖とアミノ酸を溶解させた水と共に閉じ込めている。何を栄養源にしているか分からなかったので、とりあえず溶けそうな栄養素を溶かしておいた、という次第だ。


「これからさらに二、三体ほど動物の死骸を解剖しようと思う。あんまりやりたい作業ではないんだけどね、アルレーヌの問題は早めに解消させないと、ボクも困るし」


「ところで、その寄生虫、人間には感染するんですか? というか、どうやって感染するんでしょう?」


「それが分かれば苦労はない。でも人間にも感染すると思った方がいいだろうね。今は情報がないから。さっき解剖したアルレーヌオオヤマネコは、胃にすっぽり収まる大きさの寄生虫がいた。胃液を中和する粘液があったし、胃の内壁から血液を吸われて餓死している。アルレーヌを出入りして、食欲不振になった者がいれば、注意した方がいいだろうな」


 寄生虫がいるのは胃の中、つまりは消化管だ。接触感染する可能性は初めから低いし、空気感染も考えにくい。となると、便から幼生や卵などが宿主の外に排出され、何らかの方法で別の宿主の中に経口感染する可能性が高いのではないか。


 恐らく人から人への感染はほとんどないと見て良いだろう。少なくとも共和国では、排水は水だけを水蒸気に変え、汚物は原子レベルで消滅させる。そういう魔道具が、南部フォーマンダ州にも北部メルトナ州にも配備されている。下水からの感染はありえない。共和国の水回りの衛生環境は、日本と張り合えるほどの高水準なのだ、水だけに。


「目下、一番感染の可能性が高いのはボク、次点で幽灘だな。あとはアルレーヌに来るような人間はそんなにいない。まあ寄生虫がどの程度広まっているのかは分からないけど、多分感染者は片手の指で数えられるほど……いや、もう一人リスクのある子がいるな」


 今から一週間前、何があったか。冬雪は思い出し、血の気が引いた。

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