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第五話-1 寄生虫

「アルレーヌに行ってみたい?」


 場所は冬雪の魔道具屋、正確には冬雪家の入り口だ。冬雪の魔道具屋は店舗区域と居住区域が一体化した物件で、魔道具屋の奥に行けば、そこからは冬雪家の居住区域になる。冬雪の養女である幽灘はアネッタ・スチュワートと仲が良く、冬雪の許可もあって、アネッタは冬雪家に上がり込むことが比較的多い。


 店の奥から商品の魔道具を持ち出してきた冬雪に、アネッタが店舗と居住区域の境界で遭遇したのだ。そこで彼女が冬雪に頼み込んだのが、前述の内容だった。冬雪にしてみれば、青天の霹靂である。


「それは別に構わないけど、アルレーヌだよ? 大丈夫かい?」


 アネッタは数週間前、冬雪家からアルレーヌの屋敷に転送され、当時アルレーヌで暴れていた生物兵器『鵺』を目の当たりにしている。死にかねない危険に直面したわけで、多少なりとも精神的外傷(トラウマ)になっていてもおかしくないのでは、と冬雪は考えるのだが、どうも本人に、その様子は見られない。


 まあ本人がいいならいいか、と冬雪は納得し、望み通りアネッタをアルレーヌに連れて行った。ホルーン水源湖で幽灘とアネッタが水遊びをしているのを見て、これならもっと暑い時期に連れてきてやれば良かったかな、と冬雪は思う。季節は既に、夏が秋に組み伏せられ、うんざりするような暑さは共和国を去った頃である。




 アルレーヌの様子がおかしい、と冬雪が気付いたのは、その一週間後だった。『鵺』の件で荒れたアルレーヌを歩き、異常がないか確認する。『鵺』の件では屋敷も大きな被害を受けたが、彼の持つ武器は屋敷の武器庫にある。ここまで被害が及ぶと困るので、アルレーヌの屋敷周辺は、定期的に巡回を行っているのだ。


 異常を感じたのは、屋敷の外に出た際、腐臭を感じたためだった。


 無論、アルレーヌも森林である以上、特有の生態系が存在する。そこには多種多様な動植物が生息しており、そこに生物が存在する以上、繁殖もするし、寿命が来れば死ぬのは道理だ。腐臭がして虫が集まっている、ただそれだけならば、「異常なし」と冬雪は考えたはずだった。


 その腐臭が濃くはないものの、虫の湧く量が異常なのだ。


 森の動物の大量死──これが異常現象でないはずがない。木の根元に倒れ、虫が集まっている死骸に近付いてみると、そこにいたのは大きな狼だった。


「銀狼か……」


 体長は平均七五〇ペラレイア(一五〇センチメートル)から一二五〇ペラレイア(二五〇センチメートル)程度、温厚で人懐こい魔獣だ。豊かな美しい銀色の毛並みを持ち、傍にいるとリラックス効果がある。そんな銀狼の、痩せた死骸だった。


 だが、銀狼一体だけでここまでの虫が集まるはずがない。他にも動物の死骸があった。銀狼の死骸も一体や二体ではない。あちこちに倒れている。アルレーヌで特に危険な魔獣とされる炎犬(えんけん)や、その他多くの動物の痩せた死骸。哺乳類や鳥類や爬虫類、よく見るとホルーン水源湖には魚の死骸も浮いている。


 静かながら、凄惨な状況だった。

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