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第二話-3

 わざわざ言及するようなことでもないが、冬雪はマゾヒストではない。かといってサディストかと言われればそれもまた返答には窮するところがあるが、とにかく何が言いたいかといえば、彼は誰かに監視されて愉快な気分になる人間ではない、ということだ。


 冬雪はなにも、ただ『幻影』に加入し魔道具屋になりたくて共和国へ転生したわけではない。後者は確かに彼の願望ではあったが、前者には特に、強い望みがあったわけではなかった。彼の目的は、また別にある。それは|《禁忌の魔王》も知っていることだし、むしろ|《禁忌》の要望に応えるために転生したと言っても間違いではないほどだ。


 つまり、魔力使用者でなくなったことも、転生者となって共和国で生活していることも、さらには幽灘が幽霊ではなく転生者となったことまで、全て|《禁忌》の同意があってのことなのである。監視される謂れはない。|《禁忌》の側近である大天使、その一人であるクリス(クリーシス)も、それは充分理解しているはずだ。


「ならば、別の目的があるな」


 それも、わざわざ嘘をついて冬雪を試し、共和国へ(あるいは第二世界空間へ)潜入するような目的が。


 もっとも、一度嘘をつかれた以上、二度尋ねたところで素直に喋るとも思えない。冬雪の断定にも、クリスは何も答えなかった。精霊なら大天使の記憶も覗き見ることができるかもしれないが、荒事になる可能性は可能な限り排除しておくべきだろう。となれば、情報戦だ。スパイの専門分野である。


 とはいえ冬雪──もとい『呪風』の『幻影』での立ち位置は、主として戦闘要員及び道具の開発要員だ。加入が認められたのも魔法能力と魔道具の製作技術を買われたからであって、原来口下手で交渉ごとに向かない彼は、工作員として必要な交渉能力にやや欠ける。その自覚は誰よりも冬雪自身が持っており、だからこそ彼も、わざわざ苦手な任務には自推することはなかった。


 そうは言っていられない事態はいずれ来る。それは彼も認識していたが、まさかこうも早く訪れるとは予想外だった。しかも、完全に任務外で。やらねばならない時があるとすれば、それは今なのだろう。


 保護者としての役目もあるので冬雪は一度その場を離れ、幽灘たちのいる場所へ戻ったが、クリスの視線は途切れなかった。気付いているのは冬雪だけだ。居心地の悪さは感じるが、表に出すわけにはいかない。


 幽灘たちは、公園の池で水切りをしているようだった。アントニーが平たい石を拾い上げ水面に向けて投げると、石は水面を二度跳ねてから池に沈む。アネッタもいくらか練習しているらしく一回跳ねることには成功。やったことのない幽灘は見よう見まねで石を投げるが、苦戦している。


「難しいね、これ」


 冬雪も試しに手ごろな石を投げてみるが、一度も跳ねずに沈んでしまう。彼は幼少期、山で遊んだことはあるが、水辺ではあまり遊んだ経験がない。皆無ではなく水切りを試したこともあるのだが、良くても一回以上跳ねたことはほとんどない。父子で苦戦している横でアントニーはさらに石を投げ、今度は三回跳ねることに成功した。


「……すごいな、アントニーは。どれくらい練習したんだ?」


「今のアネッタと同じくらいの頃からやってるかな」


「子どもの成長力はすごいなあ……」


 その後何度か挑戦してみたが、冬雪の石は結局一度も跳ねなかった。

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