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第四話-18

 オストワルトの結界が割れたことで、冬雪は攻撃の手を緩めた。消耗戦に持ち込めさえすれば、少なくとも彼に、負ける道理はない。オストワルトは善戦した方だろう。


 だが、冬雪は次に起こることまでは想定していなかった。


「金属の音? ……まさか」


 背筋に悪寒が走り、オストワルトに止めを刺すために抜いたマナ・リボルバーを、冬雪は咄嗟に背後に向けて構えた。照準の先にいたのは、金属製の錆びた鎧。着ているのは木製と思われる人形、そしてその中心には精霊の気配──。


 古風な拳銃を装備したそれが、三体。それらが決闘場に踏み込んできているのだ。


 しくじったな、と冬雪は舌打ちした。


 荷電華は、中に閉じ込める(・・・・・・・)魔術なのだ。外から入れなくする(・・・・・・・・・)魔術ではない。


 これは酷い。舐めすぎている。想定が水飴よりも甘い。油断の表れだ。


「挟撃か」


 鎧の持つ拳銃が火を噴き、三つの銃口からほぼ同時に銃弾が射出される。楽器の口のように先の広がった銃口から飛び出す、古い散弾。そんなものが直線状に飛ぶはずがない。弾道を読めず、ついに冬雪も一部被弾した。


 防御が間に合わず、咄嗟に広げた強度の足りない銀魔力の膜を突き破り、頬と肩を掠める。魔術能力者になってから二年余り、戦闘で攻撃を受け、出血するのは初めてのことだ。さすがにやらかしたな、と後悔しても遅い。


「ようやく、面白くなってきたな」


 冬雪は己の契約精霊を服の中に隠した。拳銃は武器庫へ、腕輪の通信は魔法力回路を遠隔で外し、強制的に切断する。腕輪自体はそのままだ。放っておいても問題ない。


「あまり、積極的には使うつもりはなかったんだがな」


 左手の上に魔法陣が生み出され、複雑な文様を描き始める。動けなくなったオストワルトに代わり、精霊の動かす鎧が冬雪に襲い掛かるが、彼は空いた右手で銀魔力を操り、鎧の一部に穴を開け、銃を叩き落とし、薙ぎ払って遠ざける。放っておいたらさすがに危ない。


「これは本来、ボクのものじゃない。だけど状況的に、最も有効なのはこいつだ。借りるよ、リーファ」


 全身に余すところなく銀魔力を纏い、何枚も重なった複雑な魔法陣を起動する。


有機物を焼き尽くす光(ヴォルドユーベン)


 星の煌めきを上回る白色光に、決闘場が包まれる。光と熱の嵐に呑み込まれ、オストワルトは一瞬で火葬され、穴の開いた鎧の人形は内側が灰に変わる。精霊も耐えられない。


 有機物を焼き尽くす光。炭素骨格によって形成される有機物を完全燃焼させ、消滅させてしまう強力な魔術魔法だ。効果範囲は光に触れる全ての有機物、ひとたび反応が始まれば、無機物か真空によって隔絶されるまで、燃焼範囲は拡大する。


 故に、無機物である銀魔力を纏うだけで、実は防御は事足りてしまうのだ。星の煌めきや銃弾より、身を守りやすい魔術ともいえる。


 冬雪の戦闘は、大抵呆気ない終わり方をする。光が収まる頃に冬雪は銀魔力を解き、周囲を見渡す。有機物を焼き尽くす光は、鎧の中を完全に焼き尽くし、精霊を消滅させ、オストワルトを完全に骨と灰に変えた。


 荷電華を解除し、冬雪は通信機を回収、通信を再開する。腕輪も金属製で無機物なので、全く燃えないのだ。


「終わりましたよ。ちょっと危なかったけど」


 ほら、だから対物狙撃銃も大げさではないだろう? などと岩倉が話しているのが聞こえたが、これは意図的に無視した。ウェンディが反応に困っていそうなのでやめてやれ、と言いたいところだが、それよりも優先事項がある。


「オストワルト中佐の骨、どうします?」


「……後で詳しく報告させるぞ。骨も破砕しておけ」


 ところがこれがまずかった。冬雪が銀魔力で作った巨大ハンマーをオストワルトの骨に振り下ろすと、決闘場の床も同時に陥没したのだ。


「……あれ? ああそうか、精霊がいなくなったから、維持できなくなった結界が消えたのか」


 それだけで済めばよかったのだが、床に生じた亀裂は壁まで達し、手入れなく年月の経過した壁材は脆くも崩壊、天井からも石材の破片が零れ始めた。冬雪が立っていた床は数レイア下方の空洞に落下。彼自身は辛うじて飛行魔術で墜落を免れたものの、強度を失った構造物と、その場で命運を共にしなかっただけのことだ。


 迷宮の崩落が、始まった。

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