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【三章終了】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
第二章『霊眼』

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第四話-13

 研究室を一つ調べ終えたところで、ようやく冬雪は、『幻想郷』に岩倉が増えていることに気付いた。


「いつからいたんです?」


「三〇分前にはいたはずだよ」


「全然気づかなかったな、三〇分前ならちょうど拳銃拾ったくらいか。ボク、今度岩倉さんに会ったら言おうと思ってたことがあるんですよ」


「へえ、何だろうね」


「ウェンディに、ボクは化け物みたいなものだから対物狙撃銃を使え、みたいなこと言ったみたいですけど、普通に死にますからね。馬鹿なこと吹き込まないでくださいよ」


 スチュワート家に呼ばれる数日前の話だ。対人戦闘訓練において、ウェンディが対物狙撃銃を冬雪に発砲したことがあったので、元凶に向けてのその恨み言である。発砲した本人から、誰に吹き込まれたのかが報告されていたのだ。


「でも、キミが対人模擬戦闘で『幻影(うち)』の誰かに負けたところ、見たことないからねーぇ」


「そうですか。ではギルキリアに戻り次第対人戦闘訓練で五〇回ほどボコしますんで、そのつもりでよろしくお願いします」


「分かったよ、私が悪かったよ」


 返事はなかった。次の研究室を、冬雪が漁り始めたからだ。


 そこでも大量の遺物(オーパーツ)が発見されたようで、『幻想郷』には次々と。魔道具だかがらくただか分からないものが転がり込んでくる。ウェンディとルイは、またもそれらの整理に奔走する羽目になった。


 最近になって開発されたばかりのはずの魔導計算回路や、結界技術の設計図が発見されたときは、さすがに一同騒然としたが。


「面白いですねえ、この迷宮。今後も定期的に遊びに来たいな」


「おい、今一度言っておくが、そいつは遊びじゃなくて任務だぞ」


「知ってますよ、魔術師(ボク)の任務ですからね」


「そうだ、工作員(おまえさん)の任務だ。今は目の前の仕事に集中しろ」


(本当に、よくこんな自由が許されてるものだーぁね)


 岩倉は冬雪とトパロウルの通信を聞きながら、ぼんやりとそんなことを思った。当人的には楽しんで仕事をしているか、楽しい仕事を貰ったとでも思っているのだろうが、仮にもこれは『幻影』が預かった任務だ。下手を打てば死ぬ可能性もある。


 それを理解したうえで楽しんでいるのならもう言うことはないが、調べたいものを大量に送りつけてくる彼が、本当にそれを理解しているのか。一度死にかけてみれば死のリスクに気付けるのかもしれないが、岩倉は日本で彼を協力者にしていたときから、冬雪が戦闘において後れを取り、怪我をした姿を見たことがない。


 その実力を認められているからこそ、彼はトパロウルの頭痛の種でいながらも、ある程度好きに動くことができてるのだ。手綱は細い糸で一本きり、制御はほとんど不可能。死と隣り合わせのはずのこの仕事で、「好き」「嫌い」を主張する余裕を保っているのは、余裕を失ったことがないからか。


 冬雪は現在のところ、その能力に見合った仕事を与えられ、己の裁量で、多くの場合は問題なくこなしている。責任とはそういうものだが、一歩間違えば、その責任を自分の命で支払うことになるかもしれない。それが、現代の工作員という職業なのだ。


 常に命を危険に晒していることを、冬雪は理解しているのか。それが、岩倉には気掛かりだった。たとえ冬雪に、どれだけ能力があったとしても。

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