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【三章終了】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
第二章『霊眼』

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第四話-9

 冬雪が迷宮内部で人が死ぬ理由の予測を立てると、フレデリカとアルテミエフは途端に不安そうな顔をした。エネルギーが奪われるということは、魔法の発動もままならないということだ。派遣されてきた魔術師が太刀打ちできるか分からないとなれば、それも致し方なしである。


「でも、教魔科学省や陸軍の方たちをこのままにしておくのも可哀そうです。何か方法はないのでしょうか?」


「死体を運び出すだけなら、さっきみたいに銀魔力を使えば難しくはないけどね。ただまあ、それだと根本的には解決にならないしな」


「その状態、解消する方法はないの?」


「……どうでしょう、仕組みが分からないので、やっていないことには何とも言えませんね」


 迷宮内部の空気が外に流れている様子はない。結界か何かで制御されているようだ。だったらやってみればいいか、ということで、冬雪は迷宮の外でマナの集束を始めた。見たところ、迷宮の入り口から先は一本の長い廊下のようになっている。少なくとも五〇〇レイア(一キロメートル)はあるだろう。


爆炎(ドル・マーニャ)


 精霊術魔法の詠唱。ごっそりとマナを消耗するが、それで冬雪が倒れることはない。


 ドル・マーニャは、着弾点に爆発を起こす火球を放つ。それが第六段階(ドル)となれば、膨大なエネルギーを奪わせることになる。冬雪の目論見は、吸収される速度を上回る圧倒的短時間で、単位時間あたりに吸収できる最大量を超えるエネルギーを詰め込んで仕掛けを破壊する、という力技だった。


 爆炎を撃ちこんだ約三秒後、暗くてよく見えなかった廊下の奥が非色に染まり、それからさらに三秒程度で轟音が届き、さらに一拍置いて突風が吹き荒れる。それが収まると冬雪は再度迷宮に銀魔力を差し込み、制御を緩めた。液体の消滅速度が通常通りになっている。どうやらこの単純な力技で解消したらしい。


「これで死にはしないでしょう。然るべき機関に連絡して、死体の収容を始めることをお勧めします」


「あなたは?」


「迷宮を探索してきますよ。それが今回の仕事ですから」




 爆風でやや崩れた死体の山を越えて歩いていると、冬雪の背後に壁が出現した。天井の一部が下りてきたらしい。銀魔力の籠手で殴りつけてみるが、崩壊するどころか、亀裂の一本すら入る様子がない。外側の壁と同じく、結界で保護されているようだ。下部は床と、左右は壁と、結界ごと完全に固まっており、隙間は見当たらない。


「侵入者を閉じ込め、外に出さないための措置、かな」


 一応時間を掛ければ結界は解除できそうだが、折角なので迷宮の仕掛け(アトラクション)を堪能してみたい。冬雪は工作員として退路を確保することではなく、探検者として先に進むことを選択した。他に、フレデリカやアルテミエフの視界に入らない方が、都合のいいこともある。


 冬雪は左手首に装着されている腕輪を起動した。『幻影』に所属する三等以上の工作員が持つ魔道具に繋がる通信機だ。『幻想郷』には固定式のものが置いてあり、これを中継器にすれば、距離に関係なく他の通信機と携帯映像通信を行える。


 冬雪は今回、これを『幻想郷』に繋いだ。


「……お、迷宮の中からもちゃんと繋がった」


 冬雪の手元に浮かび上がる魔法陣に、トパロウルの顔が映った。隣には長い銀髪が見え隠れしている。ウェンディもそこにいるようだ。


「先生! 迷宮には無事に入れたんですね」


「お前さんが失敗したら、完全に封鎖する以外道はないところだったぞ」


「無事に、というほど順調だったわけでもありませんけどね、まあ何とか。フレデリカ・シャロンには、入り口の死体を収容するよう言っておきました。腐敗が進行していますが、軍人や教魔科学省の職員も、ようやく遺族のもとに帰せるでしょう」


「迷宮に入ったら死んじゃうって話だったんじゃ……」


「割と力技だけど、そっちは無力化したよ。今は多分、誰でも入れる。入口から先は封鎖されちゃったけどね」


 それから冬雪は、現在の状況を簡単にトパロウルに説明した。トパロウルは冬雪が退路の確保を見送ったことを聴くと、渋い顔で眉間を押さえた。


「……おい、もしかしなくてもお前さん、今の状況を楽しんでいるだろう。仕事なんだぞ、それは」


「魔術師としての、ね。言ったじゃないですか、迷宮攻略は一度やってみたかったんだって。協会からの書類にもあった通り、今回はこっちで自由に仕事させてもらいますからね」


 またとない機会なのだ、これだけは譲らぬと冬雪が示すと、トパロウルは仕方なさそうに諦めた。そもそもこのマイペースな部下に向かって、上司からあれこれ言ってコントロールを試みてもも無駄なのだ、と悟ったのである。

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